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オペラのイコノロジー 2

オルフェオ

クレモナ、マントヴァ、そしてオペラの生誕

著:山西 龍郎

紙版

内容紹介

 一六〇七年、北イタリア・ロンバルディア地方の小都市マントヴァの宮廷の中で、街の規模には見合わないほどの人々が集ううちに、けたたましくも壮麗な響きが鳴り渡った。それがモンテヴェルディによる音楽劇『オルフェオ』冒頭の「トッカータ」である。それはまさにそこに居合わせた人々の情感を揺り動かす新しい何かを強烈に内包した響きであり、それ以後の音楽的営為を後戻りできない地平に導きだす、始源の響きであった。それはそれに続く「プロローゴ」以下のどの一曲、一シーンにも貫かれた音楽的実践であり、それまで〈第二書法〉と呼ばれる位置に甘んじていた新時代の音楽語法を、それこそ〈第一〉へと引きあげる力と迫力に満ちていたのである。そこに、〈バロック〉と〈オペラ〉が、奔出する。
 本書はこのモンテヴェルディによる『オルフェオ』成立の周辺を自由に歩き回り、その作品そのものに表出され、結晶化されている要素の一つひとつを、想像力の翼を自由に広げて探索しようとするものである。上演のかたち——マントヴァという小宮廷ながら、イザベラ・デステ以来凝縮されたルネサンス‐マニエリスムの香気漂う環境での、フィレンツェを見据えて一歩ひねったスタンスの「アカデミア・デリ・インヴァギーティ(偏倚者たち/数寄者たち)」主催という体裁も含めて。話のかたち——アルカディア幻想とオルフェウス伝説を巧みに駆使したテクスト(ストリッジョ)。音のかたち——ルネサンス的音の造形美と、それを超出する過剰なまでの情感を表出する現場での装飾の重さ。こうしたそれぞれのかたちを、一音楽学、オペラ研究といった枠を外して自由に検証してみようと思う。そしてこの溢れでる情感の時空を、あるいは「官能の庭」(マリオ・プラーツ)を、これらを巧みに統御する庭師モンテヴェルディの顔貌を、同時代のさまざまな要素と比較して浮かびあがらせたい。

目次

プロローゴ 複合と背反
       ——クレモナの予兆
第1幕 マントヴァ
       ——オルフェオの新しきアルカディアへ
第2幕 緑なす山への音楽の帰還
       ——ポリフォニーとモノディの狭間で
第3幕 オルフェオの地平
       ——アルカディアにも死あり……
エピローゴ 「官能の庭師」の手並の中から
       ——「いとも麗しく正しき修辞の技」の行方
あとがき

ISBN:9784756601704
出版社:ありな書房
判型:A5
ページ数:168ページ
定価:3500円(本体)
発行年月日:2001年09月
発売日:2001年09月01日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:AVLF