以文叢書 4
人類進化再考
社会生成の考古学
著:黒田 末寿
内容紹介
ダーウィン以来の進化思想は、「人間」がいかに進化したかに関心を集中して発展してきました。その背後には、人間はいかに他の動物と違うかという、人間のアイデンティティの探求が負荷されています。本書はチンパンジー属の食物分配の観察からこの考えに反証します。
目次
序
1 類人猿がともに生きている意味
2 チンパンジー属の食物分配の再評価
3 〈自制〉と〈欲求の断念〉
4 チンパンジーの暴力とピグミーチンパンジーの依存
5 家族の起源前論からの脱却
Ⅰ 類人猿との出会い
1 ピグミーチンパンジーと見つめ合う
2 森の思考
3 フィールドワークの僥倖
4 内なる類人猿
Ⅱ 隣人の発見
1 チンパンジーと人間
2 チンパンジー研究の開始
3 チンパンジーの心の発見
4 チンパンジー社会の発見
5 どこまでも似ている
6 子殺し
7 戦争文化複合
8 新たな隣人
9 チンパンジーのなかの人間
Ⅲ 分かち合いの風景Ⅰ---類人猿社会
1 食物を分かち合うピグミーチンパンジー
2 乞われる者の葛藤
3 〈乞う-乞われる〉関係
4 物乞いのテクニック
5 食物の取合いと所有関係
6 チンパンジーの食物分配
7 分配の道具論と社会論
Ⅳ 分かち合いの風景Ⅱ---人間社会
1 食物の社会性
2 共同体のなかの分かち合い
3 分配の楽しさ
4 我欲の克服
5 所有と分配
6 分配の統御
7 自然から文化への飛躍と食物分配
Ⅴ 食物分配の出現=社会進化上の革命
1 人類進化論の食物分配---制度論の欠如
2 平等社会論による位置づけ
3 社会化された食行為
4 〈もの〉による社会関係の表現
5 主体的行為としての分配=自由意志の発生
6 価値の発生と多元化
7 所有の発生
8 欲求の断念と自己の客観視
Ⅵ 自己意識と他者理解
1 鏡を使って身繕いする
2 自己の見え姿を想像できるか
3 〈身動きならない自制〉と〈操作的鏡映像理解〉
4 だまし
5 同情と同調
6 他者の楽しみを楽しむ
7 他者間の関係認知
Ⅶ 食物分配のダイナミクス---制度化直前の社会まで
1 チンパンジー属と互酬性
2 同盟関係と互酬性-行為の交換
3 共同作業と気前のよい分配
4 分配の役割交換と〈お返し〉
5 秩序維持の食物分配
6 脱秩序の食物分配
7 協力とコムニタス的食物分配
8 コムニタス的食物分配+秩序維持型食物分配≒互酬性?
9 欲求の断念の共有とチンパンジーの限界
10 カンジ、共感の進化の再現
11 一致感覚の表明と互酬性
Ⅷ 進化社会学と制度論の展望
1 家族の起源論における制度
2 行動から制度をみる
3 言語なしの制度は可能か
4 不完全な形式、滅んだものの評価
あとがき
参考文献