句集『光ひとり』
著:藤野 武
紙版
内容紹介
【掲載句より】
夜半(よわ)醒めて寒牡丹燃ゆ胸の浅瀬
夕蜩思いは生絹(すずし)のごとし遠し
ががんぼを言霊のように手で包む
日傘とう一瞬の光(かげ)君は病み
熟柿落つ自由というも危うくて
矢印の方へ人行く晩夏なり
蛇穴にゆるると古典的な所作
桐の実のやさしく拒否するとき揺れる
青麦のきらきらきらと物忘れ
老人ホームに虫ピンで止められし晩夏
霧の来て山わしづかむ我が胸も
空(から)の巣へ秋雲寄するばかりなり
うろうろふわふわ早春は白犬
鮎光り翳り言葉は古りゆけり
人よ癒えよ嬰の握りし夏の光
冬星鋭(と)し我ら流されて久し