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ロラン・バルト 喪の日記 新装版

原案:ロラン・バルト
訳:石川美子

紙版

内容紹介

「1978年8月18日
彼女が臥せっていて、そこで亡くなり、いまはわたしが寝起きをしている部屋のその場所。彼女のベッドの頭部をくっつけてあった壁に、イコンを置いた——信仰からではない——。そこのテーブルの上には、いつも花をかざってある。それゆえに、もう旅をしたくなくなっている。そこにいられるように、けっして花をしおれさせたりしないように、と。」

最愛の母アンリエットは1977年10月25日に亡くなる。その死は、たんなる悲しみをこえた絶望的な思いをもたらし、残酷な喪のなかで、バルトはカードに日記を書きはじめた。二年近くのあいだに書かれたカードは320枚、バルト自身によって五つに分けられ『喪の日記』と名づけられた。
とぎれとぎれの言葉が、すこしずつかたちをなして、ひとつの作品の輪郭をえがきはじめるのが日記からかいまみられる。そうして、母の写真をめぐる作品『明るい部屋』が生まれたのだった。
『喪の日記』は、最晩年のバルトがのこした苦悩の刻跡であり、愛するひとを失った者が「新たな生」をはじめようとする懸命の物語である。そこから浮かびあがってくるのは、言葉で生かされている者が言葉にすがって立ち上がろうとする静やかなすがたなのである。

目次

喪の日記 1977年10月26日-1978年6月21日
日記のつづき 1978年6月24日-1978年10月25日
(新たなつづき) 1978年10月26日-1979年9月15日
日付のない断章
マムについてのメモ

訳註・解説

著者略歴

原案:ロラン・バルト
(Roland Barthes)
1915-1980。フランスの批評家・思想家。1953年に『零度のエクリチュール』を出版して以来、現代思想にかぎりない影響を与えつづけた。1975年に彼自身が分類した位相によれば、(1)サルトル、マルクス、ブレヒトの読解をつうじて生まれた演劇論、『現代社会の神話(ミトロジー)』(2)ソシュールの読解をつうじて生まれた『記号学の原理』『モードの体系』(3)ソレルス、クリテヴァ、デリダ、ラカンの読解をつうじて生まれた『S/Z』『サド、フーリエ、ロヨラ』『記号の国』(4)ニーチェの読解をつうじて生まれた『テクストの快楽』『ロラン・バルトによるロラン・バルト』などの著作がある。そして『恋愛のディスクール・断章』『明るい部屋』を出版したが、その直後、1980年2月25日に交通事故に遭い、3月26日に亡くなった。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。
訳:石川美子
(いしかわ・よしこ)
1980年、京都大学文学部卒業。東京大学人文科学研究科博士課程を経て、1992年、パリ第VII大学で博士号取得。フランス文学専攻。明治学院大学名誉教授。著書『自伝の時間——ひとはなぜ自伝を書くのか』(中央公論社)『旅のエクリチュール』(白水社)『青のパティニール 最初の風景画家』(みすず書房)『ロラン・バルト』(中公新書)ほか。訳書  モディアノ『サーカスが通る』(集英社)、フェーヴル『ミシュレとルネサンス』(藤原書店)、ロラン・バルト著作集7『記号の国』、ロラン・バルト著作集10『新たな生のほうへ』、バルト『零度のエクリチュール 新版』『ロラン・バルトによるロラン・バルト』、マルティ他『ロラン・バルトの遺産』(共訳)、フリゾン=ロッシュ『結ばれたロープ』(以上みすず書房)ほか。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

ISBN:9784622096245
出版社:みすず書房
判型:4-6
ページ数:304ページ
定価:4400円(本体)
発行年月日:2023年05月
発売日:2023年05月22日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:DND