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認知アポカリプス

文明崩壊の社会学

著:ジェラルド・ブロネール
訳:高橋啓

紙版

内容紹介

人類はいま史上最長の自由時間を手にしている。労働など生命維持のために必要な時間は1800年の48%から11%に減った(フランスでの統計)。先人には夢のようなこの時間が向かう先は、スマートフォンなどの画面である。そこでは正統な学知とデマが対等となり、世界を単純化するストーリーや、注意を惹くためだけに設計された広告が人の認知を奪い合う。AIが人間の仕事を代行するようになれば、自由時間はさらに飛躍的に増えるだろう。しかしそれは意味のあるものを生むために使われるのではなく、認知の争奪戦が繰り広げられる市場でただ蕩尽されて終わる可能性が高い。
高度な文明の源泉は人間の脳である。気候変動などの危機を乗り越える可能性も、人間の脳からしか生まれてこない。この頭脳を働かせることのできる時間が最大化している現在、それを貪ることで利益を上げる経済モデルにわれわれは直面しているのである。この状況は、生存可能性を高めるものとしてヒトが具えてきた生物学的特徴が、テクノロジー社会とミスマッチを起こした結果でもある。
この規制なき認知市場を放置することの意味を、われわれは真剣に考えなければならないだろう。現下の問題は、フェイクや陰謀論や反知性主義などすでに指摘されてきた弊害よりずっと根深く複雑だ。人類史上かつてない課題に、認知科学と社会学からアプローチする異色の試論。

目次

主観的な序言――恐るべき時代

第1部 この世でもっとも貴重なもの
解放された人類
人類のもう一つの歴史
1997年5月11日
コンピュータの電撃戦
外部委託
計り知れない富
ここまでは大丈夫
立ったまま眠る
きみが画面を見つめるとき、画面もきみを見つめている

第2部 ありあまるほどの脳の自由時間!
グローバルな「カクテルパーティ効果」
その胸は隠して……
奥底に潜む恐怖心
抗争好きの人類
この章では思いがけない展開が待っている……
自虐(セルフ・セヴィス)
啓示
世界を編集する
真実はおのずと支持されるわけではない

第3部 未来はそんなに長くはもたない
禍々しい頭
われらが同胞の趣味(テイスト)
本来の性質を歪められた人間
支払うべき代価
私的な嘘、公的な真実
様々なネオ・ポピュリズム
物語同士の闘い

結論――最後の闘い

訳者あとがき
原注

著者略歴

著:ジェラルド・ブロネール
(Gérald Bronner)
1969年フランスのナンシー生まれ。パリ大学社会学教授。フランス・テクノロジー・アカデミー会員。フランス医学アカデミー会員。著書にL’Incertitude (PUF, 1997), L’Empire des croyances (PUF, 2003), L’Empire de l’erreur :Éléments de sociologie cognitive (PUF, 2007), La Pensée extrême :Comment des hommes ordinaires deviennent des fanatiques (Denoël, 2009), La Démocratie des crédules (PUF, 2013), Déchéance de rationalité (Grasset, 2019), Comme des dieux (Grasset, 2022), Les Origines: Pourquoi devient-on qui l'on est ? (Autrement, 2023) などがある。
訳:高橋啓
(たかはし・けい)
1953年、北海道に生まれる。翻訳家。早稲田大学文学部卒。訳書に、パスカル・キニャール『アルブキウス』『音楽への憎しみ』『辺境の館』『アプロニア・アウィティアの柘植の板』『アマリアの別荘』(以上、青土社)、フィリップ・クローデル『灰色の魂』『リンさんの小さな子』『ブロデックの報告書』、マグダ・オランデール=ラフォン『四つの小さなパン切れ』(以上、みすず書房)、ジョルジュ・シムノン『仕立て屋の恋』(早川書房)、ジョルジュ・ジャン『文字の歴史』(創元社)、ジャック・ルーボー『麗しのオルタンス』『誘拐されたオルタンス』(創元推理文庫)、ローラン・ビネ『HHhH』『言語の七番目の機能』、オリヴィエ・ゲーズ『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』、ポール・フルネル『編集者とタブレット』(以上、東京創元社)などがある。

ISBN:9784622096016
出版社:みすず書房
判型:4-6
ページ数:344ページ
定価:4000円(本体)
発行年月日:2023年04月
発売日:2023年04月20日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:UD