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トゥーキュディデースとホッブズ

真のリアリズムを求めて

編:木庭顕

紙版

内容紹介

国際情勢の緊張の中でリアリズムが標榜されるとき、決まって引き合いに出される二人の知的巨人ThoukydidesとHobbes。
しかし、前者は現実(リアル)の戦争を、一切の情緒的部分を排して凝視した。情念が意思決定へ短絡する、出口なしの絶望的状況を歴史家は描いた。視線はさらに深く貫通し、デモクラシーの腐食を生む社会の病理すら捉えた。Thoukydidesにとって歴史とは現代史であり政治史でなければならなかった。
その著を、後者は原文のギリシャ語で最深部まで読み抜くことによって近代政治哲学を創始した。Hobbes訳Thoukydides『歴史』はHobbesの最初の公刊作品である。Thoukydidesの基底から摑み取った概念を、Hobbesは精確にまた大胆に英語へ訳出した。当時イングランドの世論は大陸との戦争を煽る好戦派が優勢だった。訳業は、好戦的傾向が大変な災厄をもたらすことを読者に警告するためになされた。平和主義者Hobbes――〈人民の福祉[……]の観点から主権者を制約するためには[……]制定法(われらが憲法9条!)も悪くない、とまでHobbesは言う〉(巻末解説236頁)。
鮮やかな論証で先入見を覆す最新最良の論集。HobbesのThoukydides受容を論じる気鋭の2篇(Hoekstra, Iori)を基軸に、Hobbes研究最先端(Malcolm, Hoekstra)、Thoukydides研究(De Romillyの古典的傑作、編訳者書き下ろし)を緊密に編む。同時代の政治状況においてThoukydidesを真剣に読んだHobbesを、現代の私たちが真剣に読む。真のリアリズムを求めて。

目次

はしがき

I Thoukydidesにおける「怖れ」の観念  Jacqueline de Romilly
訳註

II Thoukydidesによる情念の歴史分析  木庭顕
1 諸症状、および一個のパターン
2 或る病理学
3 病理学現象の歴史的要因
4 さらなる問題

III Thomas HobbesによるThoukydides翻訳  Luca Iori
1 Thoukydidesのテクストにおいて恐怖を意味する諸語が形成する連接布置
2 Hobbes訳における、恐怖を意味する語彙の布置
3 政治哲学の萌芽
付表I/付表II/参考文献

IV HobbesのThoukydides  Kinch Hoekstra
1 王政、貴族政、デモクラシー
2 古典と予防的戦争
3 秘かな教示
4 HobbesのThoukydides、その一側面
5 「政治的な」歴史
参考文献

V Hobbesの国際関係理論  Noel Malcolm

VI Hobbes政治哲学におけるde facto「転回」  Kinch Hoekstra
1 王権尊重主義──例外としてのReview
2 de facto理論──原則としてのReview
3 同意理論──Reviewと統治の受け容れ
4 自然主義──「である」から「すべし」を導き、「すべし」から「である」を導く
5 暫定的結論

若い読者のための小案内  木庭顕

著者略歴

編:木庭顕
(こば・あきら)
1951-。専攻は歴史学、ギリシャ・ローマおよび現代に及ぶ人文主義の歴史が主たるフィールド。本書関連著作として、『デモクラシーの古典的基礎』(東京大学出版会、2003)、『憲法9条へのカタバシス』(みすず書房、2018)、『モミッリャーノ 歴史学を歴史学する』(編訳、みすず書房、2021)ほか。

ISBN:9784622095590
出版社:みすず書房
判型:A5
ページ数:264ページ
定価:6500円(本体)
発行年月日:2022年12月
発売日:2022年12月05日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:DNB