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帝国の虜囚

日本軍捕虜収容所の現実

著:サラ・コブナー
訳:白川貴子
解説:内海愛子

紙版

内容紹介

アジア・太平洋戦争中、日本軍は戦地で捕らえた連合国の捕虜を一貫して虐待したというのが、今日でも欧米の共通理解となっている。映画『戦場にかける橋』や『不屈の男 アンブロークン』などにも見られるそうしたイメージは、どこまで現実を反映しているのだろうか?
1941年12月の真珠湾攻撃とマレー半島上陸から5カ月のうちに、日本軍は14万人以上の連合軍兵士と13万人の民間人を捕虜にし、満洲からジャワまで各地に急造した700カ所以上の収容所に収容した。混乱のなかで米兵捕虜の約4割が命を落とし、収容所で死亡したオーストラリア兵捕虜の数は、戦場の戦死者よりも多かった。
日本研究者である著者は、明治維新以降の歴史を精緻に踏まえつつ、シンガポール、フィリピン、朝鮮、福岡など特徴的な収容所を選んで捕虜たちが残した記録や証言にあたり、かれらの置かれた状況を立体的に再現する。日本側と捕虜側双方の人種偏見、朝鮮や台湾出身の軍属、アジア人や女性捕虜への目配りも怠りない。綿密な調査により、捕虜に対する過酷な扱いのほとんどは、日本側の計画の欠如、貧弱な訓練、官僚主義に起因しており、統一的な〈虐待〉方針が存在したわけではないことを裏付ける。また、収容所での虐待よりも、友軍による爆撃や移送中の魚雷攻撃で死亡する捕虜の方が多かった。
「何を記憶し、何を忘れ去るかは社会に委ねられているのである」(序章より)。戦争を総体として捉え、今日の捕虜や軍事法廷をめぐる問題を考えるうえでも欠かせない歴史研究。

目次

序章 広く知られる奇妙な歴史
第1章 近代化の旗手から無法国家へ
第2章 シンガポール──ひっくり返った世界
第3章 フィリピン──地獄のコモンウェルス
第4章 言葉の戦争
第5章 朝鮮──模範収容所の生と死
第6章 銃後の捕虜収容所
第7章 終わりと始まり
第8章 不当な手続き(アンデュー・プロセス)
第9章 歴史の虜囚──戦後のジュネーブ条約の再交渉
終章 二度と、再び繰り返さない

謝辞
解説 「無関心」が生んだ「無為無策」──捕虜虐待の「無責任体制」  内海愛子
アーカイブ資料
原注
索引

著者略歴

著:サラ・コブナー
(Sarah Kovner)
コロンビア大学サルツマン戦争と平和研究所上席研究員(日本研究)。イェール大学国際安全保障研究所フェロー、フロリダ大学准教授(歴史学)も務める。コロンビア大学で博士号取得。京都大学、東京大学でも研究を行なう。初の著書Occupying Power: Sex Workers and Servicemen in Postwar Japan (Stanford University Press, 2012)は、米国大学・研究図書館協会(ACRL)書評誌Choice が選ぶ「Outstanding Academic Title」(傑出した学術書籍)に選ばれている。
訳:白川貴子
(しらかわ・たかこ)
獨協大学外国語学部講師。訳書に、オルブライト『ファシズム』(共訳、みすず書房、2020)、クレイン『ユー・アー・ヒア』(早川書房、2019)、オルドバス『天使のいる廃墟』(2020)、パストル『悪女』(2018)、マリアス『執着』(2016 以上、東京創元社)ほか。
解説:内海愛子
(うつみ・あいこ)
1941年生まれ。早稲田大学大学院文学部社会学専攻修了。恵泉女学園大学名誉教授。おもな著書に『朝鮮人BC級戦犯の記録』(勁草書房、1982、岩波現代文庫、2015)、『日本軍の捕虜政策』(青木書店、2005)、『スガモプリズン──戦犯たちの平和運動』(吉川弘文館、2004)、『キムはなぜ裁かれたのか──朝鮮人BC級戦犯の軌跡』(朝日新聞出版、2008)、『戦後責任──アジアのまなざしに応えて』(共著、岩波書店、2014)など。

ISBN:9784622095279
出版社:みすず書房
判型:4-6
ページ数:408ページ
定価:4800円(本体)
発行年月日:2022年12月
発売日:2022年12月13日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:NHF
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:1FPJ