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カチンの森【新装版】

ポーランド指導階級の抹殺

著:ヴィクトル・ザスラフスキー
訳:根岸隆夫

紙版

内容紹介

1939年8月の独ソ不可侵条約、それにもとづく両国の相次ぐポーランド侵攻、こうして第二次大戦ははじまった。
1940年春、ソ連西部、スモレンスク郊外のカチンの森で、ソ連秘密警察は約4,400人のポーランド人捕虜将校を銃殺した。犠牲者数は、同時期に他の収容所などで殺されたポーランド人と合わせて22,000人以上。職業軍人だけでなく、医師、大学教授、裁判官、新聞記者、司祭、小中学校教師など、国をリードする階層全体におよんだ。
しかしソ連は、犯人はドイツであると主張。さらに連合国もすべてソ連の隠蔽工作に加担し、冷戦下も沈黙を守りつづけた。ソ連が事実を認めたのは1990年、ゴルバチョフの時代。92年になるとスターリンの署名した銃殺命令書も閲覧可能になる。
スターリンが、ポーランドという国自体を地図から抹消しようとした理由は何か。なぜゴルバチョフは、もっとも重要な文書の公開に踏み切れなかったのか。著者は簡潔にバランスよく、独ソ不可侵条約とカチン虐殺の関係、欧米列強の対応と思惑、歴史家の責任、さらにはカチンに象徴されるソ連全体主義の根本的な問題と、ふたつの全体主義国家(ナチ・ドイツとソ連)の比較まで、最新資料を駆使しながら解析する。
日本では類書はきわめて少ないが、欧米では蓄積がある。本書はそのなかでも決定版として評価が高い。今後、20世紀ソ連の全体主義見直しのなかで、ますます重要度を増すことだろう。2008年、ハンナ・アーレント政治思想賞を受賞。

目次

序論
I ポーランド分割とポーランド市民のソ連収容所拘禁
II 殺戮と追放
III 階級殺戮、すなわち階級浄化
IV カチンの虐殺——責任者たちを探して
V ソ連のつく嘘と西側によるその隠蔽
VI ソ連の公式見解に甘んじる政治家と歴史研究者
VII ゴルバチョフの沈黙
VIII カチン事件——歴史学と政治へのひとつの教訓

訳者あとがき

原注
地図
カチン事件 年表
索引

著者略歴

著:ヴィクトル・ザスラフスキー
ヴィクトル・ザスラフスキー
(Victor Zaslavsky)
1937-2009。レニングラードに生まれる。レニングラード大学で社会学を学び、母校で教鞭をとっていたが、1975年ソ連を出国、カナダに移住・帰化した。カリフォルニア、スタンフォード、ヴェネツィア、フィレンツェ、ナポリの各大学で政治社会学を教え、最後は亡くなるまでローマのルイス・グイド・カルリ社会科学自由大学の教授。専門は第二次大戦後のソ連(ロシア)・イタリア政治関係史。著書 La Russia senza soviet 〔ソヴィエトのないロシア〕(1996)、Il massacro di Katyn 〔カチンの虐殺〕(1998)、Storia del sistema sovietico 〔ソヴィエト制度史〕(2001)、Lo stalinismo e la sinistra italiana 〔スターリン主義とイタリア左翼〕(2004)、Togliatti e Stalin 〔トリアッティとスターリン〕(共著、2007)他。
訳:根岸隆夫
(ねぎし・たかお)
翻訳家。第一次大戦と第二次大戦の間(1930年代)、特に独露両国の政治社会状況に関心を持つ。訳書 クリヴィツキー『スターリン時代:元ソヴィエト諜報機関長の記録』(みすず書房、1987)、ポレツキー『絶滅された世代:あるソヴィエト・スパイの生と死』(みすず書房、1989)、トロツキー『テロリズムと共産主義』(現代思潮社、1970)、リード/フィッシャー『ヒトラーとスターリン:死の抱擁の瞬間』(上下、みすず書房、2001)、ジェラテリー『ヒトラーを支持したドイツ国民』(みすず書房、2008)、ビーヴァー『スペイン内戦:1936-1939』(上下、みすず書房、2011)。

ISBN:9784622095200
出版社:みすず書房
判型:4-6
ページ数:224ページ
定価:3600円(本体)
発行年月日:2022年05月
発売日:2022年05月23日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:NHD
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:1DFG