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翻訳理論の探求〔新装版〕

著:アンソニー・ピム
訳:武田 珂代子

紙版

内容紹介

本書は、西洋の翻訳理論を土台とし、言語学的アプローチに基づく古典的な翻訳理論から、文化翻訳を含む最近のモデルまで翻訳理論の展開を考察している。
焦点になるのは、等価、機能主義、記述的翻訳研究、翻訳の不確定性、ローカリゼーション、文化翻訳といった中核的パラダイムおよびその関連理論である。ポストモダン・カルチュラルスタディーズや社会学のモデルとして翻訳を扱うアプローチにも触れ、従来の翻訳の概念を超えた取り組みが紹介されている。 
各理論の系譜や繋がり、パラダイム間の相違点、また、各パラダイムに対する批判あるいは擁護が明確に提示され、各章末の課題によって、翻訳事象に対する読者自身の問題意識を喚起しようとしている。
J・マンデイ『翻訳学入門』が、翻訳学の全体像を知り、研究の糸口の指針となる優れた入門書であるのに対し、本書は「翻訳とは何か」という根源的な議論への起爆剤になる理論書である。
A・ピムは比較文学を学んだ後、社会学、哲学、言語学、翻訳学を修め、現在、翻訳通訳・異文化間研究分野で大学院生の研究・実践指導にあたっている。世界中で講演や講義を行いながら研究者育成に精力的に取り組み、そのカリスマ性で多くの新進翻訳研究者が師事を仰ぐ存在である。英語、フランス語で発表してきた著書、編書、論文は200を超え、翻訳理論・研究の分野で最も引用される学者の一人。最新の翻訳事象に注意を向け、翻訳の根源的テーマに対し鋭い問題提起をし続け、困難な課題に真っ向から挑戦している。これはそうした著者の、翻訳学への情熱と健全な批判精神がみなぎる一書である。

目次

図表のリスト
謝辞
まえがき

第1章 翻訳理論とは何か
1. 1 「理論づけ」から「理論」へ
1. 2 「理論」から「パラダイム」へ
1. 3 本書の構成
1. 4 なぜ翻訳理論を学ぶのか
1. 5 翻訳理論はどう学ぶべきか

第2章 自然的等価
2. 1 概念としての自然的等価
2. 2 「等価」対「構造主義」
2. 3 自然的等価を維持する翻訳手順
2. 4 テクストベースの等価
2. 5 「比較のための第三項」と「意味の理論」
2. 6 自然的等価の長所
2. 7 頻繁な議論
2. 8 歴史的な下位パラダイムとしての自然的等価

第3章 方向的等価
3. 1 二種類の類似性
3. 2 等価の定義における方向性
3. 3 検証としての逆翻訳
3. 4 方向的等価の二項対立性
3. 5 分類は二つだけか
3. 6 関連性理論
3. 7 幻想としての等価
3. 8 方向的等価の長所
3. 9 頻繁な議論

第4章 目的
4. 1 新パラダイムの鍵としてのスコポス
4. 2 ライス、フェアメーアとスコポス的アプローチの起源
4. 3 ホルツ=メンテーリと翻訳者の専門知識に関する理論
4. 4 目的に基づいた「事足りる」翻訳の理論
4. 5 誰が目的を決めるのか
4. 6 目的パラダイムの長所
4. 7 頻繁な議論
4. 8 プロジェクト分析への応用

第5章 記述
5. 1 等価パラダイムに何が起こったか
5. 2 記述パラダイム内の理論的概念
5. 3 規範
5. 4 「想定された」翻訳
5. 5 目標側の優先
5. 6 翻訳の普遍的特性
5. 7 法則
5. 8 頻繁な議論
5. 9 記述パラダイムの行方

第6章 不確定性
6. 1 なぜ「不確定性」か
6. 2 不確定性原理
6. 3 言語の決定性と翻訳の非決定性
6. 4 不確定性と共存するための理論
6. 5 脱構築
6. 6 では、どう翻訳すべきか
6. 7 頻繁な議論

第7章 ローカリゼーション
7. 1 パラダイムとしてのローカリゼーション
7. 2 ローカリゼーションとは何か
7. 3 国際化とは何か
7. 4 ローカリゼーションは新しい概念か
7. 5 テクノロジーの役割
7. 6 翻訳はローカリゼーションの一部か
7. 7 頻繁な議論
7. 8 ローカリゼーションの行方

第8章 文化翻訳
8. 1 新世紀のための新パラダイムか
8. 2 バーバと「非実質的な」翻訳
8. 3  翻訳不在の翻訳:広範な学問の希求
8. 4 翻訳としての民族誌学
8. 5 翻訳社会学
8. 6 スピヴァクと翻訳の政治的精神分析
8. 7 「一般化された翻訳」
8. 8 頻繁な議論

あとがき:自分の理論を生み出そう
訳者あとがき
付録:訳者と原著者のQ&A
参考文献
人名索引
事項索引

著者略歴

著:アンソニー・ピム
オーストラリア、パース出身。オーストラリアで比較文学を学んだ後、フランス国立社会科学高等研究院(EHESS)より社会学で博士号取得。米国、ドイツでも哲学、社会学、言語学、翻訳学を研究。現在、スペインのロビラ・イ・ビルジリ大学教授、翻訳通訳・異文化間研究博士課程プログラムの責任者。モントレー国際大学大学院客員教授。翻訳学における根源的テーマで鋭い問題提起をし続けると共に、社会学的アプローチや翻訳とテクノロジーの関係など、新分野での研究をリードしてきた。翻訳学の最先端を走り、翻訳研究の国際的ネットワーク作りや若手育成にも精力的に取り組む。カリスマ性と面倒見のよさで、若い研究者にとってはスター的存在。これまで、英語、フランス語で著書、編集書、論文を200以上発表。翻訳研究分野で最も引用される研究者の一人。
訳:武田 珂代子
熊本市生まれ。専門は翻訳通訳学。米国・ミドルベリー国際大学モントレー校(MIIS)翻訳通訳大学院日本語科主任を経て、2011年より立教大学異文化コミュニケーション学部教授。MIISで翻訳通訳修士号、ロビラ・イ・ビルジリ大学(スペイン)で翻訳通訳・異文化間研究博士号を取得。著書に『東京裁判における通訳』(2008)、訳書にA・ピム『翻訳理論の探求』(2010)、F・ガイバ『ニュルンベルク裁判の通訳』(2013)、イ・ヒャンジン『コリアン・シネマ』(2018、以上みすず書房)、その他著書に『太平洋戦争 日本語諜報戦』(ちくま新書、2018)、編著書に『翻訳通訳の新地平』(晃洋書房、2016)などがある。

ISBN:9784622089711
出版社:みすず書房
判型:A5
ページ数:320ページ
定価:5800円(本体)
発行年月日:2020年10月
発売日:2020年10月16日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:VSL
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:DS