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ランスへの帰郷

著:ディディエ・エリボン
訳:塚原 史
解説:三島 憲一

紙版

内容紹介

本書は自伝の形をとっているが、この社会への鋭い考察である。自由と平等を謳う階級社会。さらには労働者階級と投票、右傾化にも、特に深い分析がなされている。

著者はフランス北東部の都市ランスの貧困家庭に生まれた。13歳で工場勤めを始めた父、小学校を出て家政婦になった母。祖父母もまた極貧の労働者だった。しかし哲学や文学に傾倒し、自身の同性愛を自覚するにつれ、著者は家族から離反してゆく。一族で初めて大学に進み、パリの知識人とも交わるようになった著者は、出自を強く恥じる。ゲイであることよりも、下層出身であることを知られるのが怖かった。
嫌悪していた父の入院と死を機に、著者は数十年ぶりで帰郷する。失われた時間を取り戻すかのように母と語り合う日々。息子が遠ざかったことで、母は苦しんでいた。自ら去ったはずの息子も、別の意味で苦しんでいた。階級社会、差別的な教育制度、執拗な性規範という、日常的であからさまな支配と服従のメカニズムが正常に働く社会。本書はその異様さと、それがもたらす苦しみを、ブルデュー、フーコー、ボールドウィン、ジュネ、ニザン、アニー・エルノー、レイモンド・ウィリアムズらの作品を道標としつつ、自らの半生に浮き彫りにした。仏独ベスト&ロングセラー。

著者略歴

著:ディディエ・エリボン
フランスの社会学者・哲学者。1953年フランス北東部の主要都市ランスに生まれ、ランス大学とパリ第1大学で哲学を学ぶ。『リベラシオン』紙、『ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』誌で文芸・思想記事の執筆者として長年活動後、カリフォルニア大学(バークレイ)、ケンブリッジ大学などで客員教授を務め、2009年から2017年までアミアン大学教授。その後ダートマス大学モンゴメリー・フェロー(特別研究員)に選出された。主著『ゲイ問題についての考察』(Réflexions sur la question gay, 1999)はジェンダー論の重要文献とされる。邦訳された著書に『ミシェル・フーコー伝』(新潮社 1991)、インタヴュー著作にレヴィ=ストロース『遠近の回想』(みすず書房 1992)、デュメジル『デュメジルとの対話』(平凡社 1993)がある。『ランスへの帰郷』(みすず書房 2020)は数か国語に訳されたベストセラー。
訳:塚原 史
1949年東京に生まれる。1979年早稲田大学大学院博士課程修了。早稲田大学名誉教授。著書『アヴァンギャルドの時代』(1997、未來社)『ボードリヤールという生きかた』(2005、NTT出版)『20世紀思想を読み解く』(2011、ちくま学芸文庫)『20世紀思想を読み解く――人間はなぜ非人間的になれるのか』(2011、ちくま学芸文庫)、『模索する美学――アヴァンギャルド社会思想史』(2014、論創社)『ダダイズム――政界をつなぐ芸術運動』(2018、岩波現代全書)。訳書 ツァラ『種子と表皮』(1988、思潮社)ブルデュ『実践感覚』2(共訳、1990、みすず書房、新装版2001、新装版2018)ボードリヤール『消費社会の神話と構造』(共訳、1995、2015、紀伊國屋書店)『ボードリヤール×吉本隆明 世紀末を語る』(1995、紀伊國屋書店)、ソレル『暴力論』(共訳、2007、岩波文庫)ボードリヤール『芸術の陰謀』(2011、NTT出版)エリボン『ランスへの帰郷』(2020、みすず書房)ほか。
解説:三島 憲一
1942年東京に生まれる。大阪大学名誉教授。著書に『ニーチェ』『戦後ドイツ』(ともに岩波新書)、『ベンヤミン――破壊・収集・記憶』(講談社学術文庫)、『歴史意識の断層』(岩波文庫)、訳書にベンヤミン『パサージュ論』(共訳、岩波書店)、ハーバーマス『近代――未完のプロジェクト』(岩波現代文庫)、レーヴィット『ヘーゲルからニーチェへ』(岩波文庫)、『ヴァルター・ベンヤミン/グレーテル・アドルノ往復書簡 1930-1940』(共訳、みすず書房)ほか多数。1987年フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞受賞、2001年オイゲン・ウント・イルゼ・ザイボルト賞受賞。

ISBN:9784622088974
出版社:みすず書房
判型:4-6
ページ数:264ページ
定価:3800円(本体)
発行年月日:2020年05月
発売日:2020年05月03日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:DNB