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実体概念と関数概念

新装版

認識批判の基本的諸問題の研究

著:エルンスト・カッシーラー
訳:山本 義隆

紙版

内容紹介

近代科学と哲学の歴史的・実証的研究にすぐれた業績を残したエルンスト・カッシーラーの名は、すでに十指に余る邦訳者の刊行によってわが国でも広く知られている。しかし、近代科学の認識批判から出発したその独自の哲学体系の中軸をなす主要な著作は必ずしも十全に紹介されてきたとは言いがたい。本書『実体概念と関数概念』は、『認識の問題』に始まり『象徴形式の哲学』へと結実するカッシーラーの足跡のなかでひときわ光彩を放つ記念碑的労作である。昭和初年の抄訳刊行以来50牛余をへだてて、その全訳がここに紹介される。
カッシーラーの本領は科学史研究にあると言える。ケプラー、ガリレイからニュートン、19世紀の物理学者からアインシュタインまでを物理学史、思想史の両面において生き生きとよみがえらせうる哲学者としてカッシーラーは他の追随を許さない。その意味で、数学的・自然科学的思惟構造の形成過程を〈実体概念〉から〈関数概念〉への発展として跡づけ、近代科学の認識論的基礎づけを試みた本書は、カッシーラーならではの先駆的業績である。
近年、科学の認識批判が問題視されるなかで、カッシーラーの主要著作は根本的な見直しを迫られている。本書の英訳普及版(1953年)が版を重ねる一方、原著復刻版(1966、1976年)、仏訳版(1977年)があいついで出版されるなど、本書は新しい視点からの注目を集めている。

目次

まえがき
凡例

第一部 事物概念と関係概念

第1章 概念形成の理論によせて
アリストテレス論理学における概念――類概念の課題と本性――抽象の問題――アリストテレス論理学の形而上学的前提――論理学と形而上学における実体概念
概念の心理主義的批判(バークリー)――抽象の心理学――抽象と再生――ミルの数学的概念の分析――心理主義的な抽象の理論の欠陥――系列形成の形式――要素と関数――論理学的基本関係の体系における事物概念の位置
「抽象」の否定的手続き――数学的概念とその「具体的普遍」――抽象の理論の批判(ランベルトおよびロッツェ)――「第一次の」対象と「第二次の」対象――対象的「志向」の多様――系列形式と系列項

第2章 数の概念
I 感覚論的導出の欠陥――算術の体系――フレーゲの『算術の基礎』――数と「表象」――表象内容と表現作用
II 純粋数概念の論理学的基礎づけ(デデキント)――関係の論理学――進行の概念――序数としての数――ヘルムホルツとクロネッカーの理論――唯名論的な導出の試みの批判
III 数概念とクラス概念――ラッセルの基礎の理論――濃度と対等――「クラス」理論の批判――0と1の論理的定義――クラス概念の前提――類概念と関係概念
IV 数概念の拡大――負数と虚数についてのガウスの理論――幾何学的基礎づけと算術的基礎づけ――デデキントによる無理数の説明――「切断」の概念――順序形式および系列形式の表現としての数
超限数の問題――濃度の概念――超限序数の創出――数の二つの「産出原理」(カントール)

第3章 空間概念と幾何学
I 概念と形態――古代幾何学の方法――空間概念と数概念――形概念と系列概念――解析幾何学の基本原理――無限小幾何学――量と関数
II 位置の幾何学――位置の幾何学の原理における直観と思惟――シュタイナーとポンスレー――幾何学的諸形態の依頼――「相関」の概念――ポンスレーとシャスレによる連続性の原理――帰納と類推――幾何学における虚なるもの――幾何学的諸要素の存在価値と統合価値
計量幾何学と射影幾何学――複比の概念――シュタウトの構成――射影計量(ケイリーとクライン)――空間概念と順序概念――幾何学と群論
III 純粋「形式説」としての結合法(ライプニッツ)――質と量――順序と測度――純粋「関係説」としての幾何学(ヒルベルト)――産出関係の綜合――グラースマンの広延論とその論理学的原理――算法の諸形式――無限小解析と関係解析――観念論の論理学と数学の体系
IV 超幾何学の問題――幾何学的諸概念の合理的基礎づけと経験的基礎づけ――パッシュの経験論の体系――観念論と経験論――数学的空間と感性的空間――純粋空間の概念的基本規定――幾何学と現実

第4章 自然科学的概念形成
I 自然概念と構成概念――純粋の記述という理想
II 計数と計量の前提――力学観の概念――運動の幾何学的概念――――運動の「主語」――数学的「観念」としての運動
極限概念とその自然認識にとっての意義――極限概念の観念論的解釈と経験論的解釈――P・デュ・ボア=レーモンの理論――「実在」の問題――真理性と現実性の関係
III 物理学的方法の問題とその歴史――古代の経験概念(プラトンおよびプロタゴラス)――自然概念と目的概念――目的論と数学――ケプラーとニュートンによる仮説の概念――数理物理学の経験概念―論理学的「仮説」と存在論的「仮説」
IV ロベルト・マイヤーの自然科学的認識の方法――仮説と自然法則――物理学的「測定」の前提――物理学的「事実」と物理学的「理論」――計量単位の獲得――時間測定の問題――定数の概念――物理学的仮説の検証
系列形成の主想――物理学的系列概念――数概念と自然概念
V 事物概念の発展――イオニアの自然哲学における実体概念――感性的質の物化(アナクサゴラスおよびアリストテレス)――化学と錬金術――類概念の体系と感性的質の物理学(ベーコン)
原子論の体系――原子論と数論――原子概念のガリレイによる基礎づけ――原子の衝突と連続性の要請――ボスコヴィッチとフェヒナーによる「単純な」原子――原子概念と微分計算――原子概念の変遷
物質の概念とエーテルの概念――物理学的対象概念の理論的形式――物理学的対象概念における「現実的」要素と「非現実的」要素――物質と理念
VI 空間と時間の概念――絶対空間と絶対時間というニュートンの概念――純粋力学の基準系――恒星天による絶対空間の代用――慣性法則――絶対空間と観念的空間――「基本体」というシュトラインツの概念――シュトラインツの試みにたいする批判――C・ノイマンの理論=物体アルファ――物理学と存在論――数学的観念としての空間と時間――絶対空間と「叡知的」空間=ニュートンとライプニッツ――ハインリヒ・ヘルツの力学の体系――構成と規約
VII エネルギーの概念――エネルギー概念と感性的質――エネルギー概念と数概念――仕事という計量概念――純粋関係概念としてのエネルギー――エネルギー一元論の形式的前提――物理学的「抽象」の方法(ランキンによるエネルギー一元論の導出)――現代論理学における抽象の問題――当量という基本概念――事物概念としてのエネルギーと秩序概念としてのエネルギー――エネルギー一元論と力学――「概念」と「像」――均質性の要求
VIII 科学における概念形成の問題――感性的質の化学=フロギストン説――定比例の法則(J・B・リヒター)――ドールトンの倍数比例の法則――化学的原子概念の発展――関係概念としての原子概念――原子概念の「統整的」使用
原子価の概念と基型説――化学の基型概念の論理学的契機――「化学的」基型と「分子」型――「基」の概念と「合成された基」の理論
化学的体系形式の再編成――元素の周期的体系――化学的概念形成における演繹――化学と数学
IX 自然科学的概念と「現実」――リッケルトの自然科学的概念形成の理論――リッケルトの理論の批判――概念と直観――語の意義と数学的概念――系列原理としての概念――普遍的なものと特殊的なもの――個別関係の表現としての概念――自然科学的定数の問題――量と量関係

第二部 関係概念の体系と現実の問題

第5章 帰納の問題によせて
I 「個別事例」の問題――個別事例と法則――「思考実験」――諸事例の全体性の前提――ロックとマッハによる経験的判断の理論――知覚と判断機能――必然的規定性の要請――経験的判断における「永遠という契機」――個別事例の積分――知覚判断と経験判断――離散的「全体」と連続的「全体」――寄せ集めとしての経験と体系としての経験――帰納と不変式論――「自然対象」の概念的前提――帰納と類推
II 帰納と分析、「合成的」方法と「分解的」方法――分析の手段としての実験――「関係層」への分解――「普遍的」関係と「特殊的」関係の基本的関係――「隔離」と「重畳」――数学における関係綜合と経験科学における関係綜合――法則と規則――出来事の一定性と一義性――「根拠」という概念と数学的な必然性の関係――知の二つの基本範型
III 自然法則の問題――法則と定数――経験の基本形式――経験の諸段階の素材的連続性と形式的連続性――「経験の不変式論」と「ア・プリオリ」の概念

第6章 現実の概念
I 「主観的」現実と「客観的」現実の分化――客観概念の意義――可変的経験要素と持続的経験要素――感性的質の主観化――客観性の度合の序列――「対象」の連続性の要求――経験内容の論理学的等級づけ――経験の組織化――「超越」の問題――感性的感覚の「超越化」
「代表」という概念――感性的「種」の理論――意識と対象の「類似性」――代表概念の再編成――「経験の全体」への歩み――真理性と現実性の関係
II 客観性の概念と空間の問題――「局所化」の問題――投射理論とその欠陥――空間表象の発生――ヘルムホルツによる概念と知覚――系列概念と経験的対象――客観性の領域における分節化――「投射」と「選択」
III 対象と判断機能――常住不変性と反復可能性――「超主観的なもの」の問題――「主観性」の誤った概念――自我概念の「客観的」前提――自我意識と対象意識の相関および「批判的実在論」――対象と思惟の必然性――批判的概念論の体系における思惟の概念――純粋数学の内部における対象性―― 「所与」と思惟機能――物質の概念と超越の問題
IV 記号論――記号と像――現象における法則的なもの――ヘルムホルツの「相対性」の理論――相対性思想の論理学的把握と存在論的把握――現実の物理学的概念――物理学的世界像の統一

第7章 関係概念の主観性と客観性
合理的認識と経験的認識の関数形式――認識の「形式」と「素材」の相互関連――「永遠の真理」の存立――ライプニッツとボルツァーノ――現代数学の真理概念
関係概念と自我の能動性――プラグマティズムの問題――真理性と有用性――経験が完成されえないことと批判的真理概念――「目論まれた統一」としての現実性――経験の諸段階の連続性と収斂――概念の二重の形式

第8章 関係の心理学によせて
I 論理学的関係と自己意識の問題――プラトンの関係概念の心理学――アリストテレスの共通感覚の理論――ライプニッツとテーテンスによる「関係思考」の心理学
近代心理学における「単純なるもの」の概念――「単純な」感覚の物化――「ゲシュタルト質」の問題――ゲシュタルト質の心理学理論――「感覚」と「直観」
II マイノングの「基礎づけられた内容」の理論――「現象的」対象と「超現象的」対象――「より高次の対象」――経験論と生得説の対立――知覚契機と判断契機――空間表象の心理学――対応づけと統合の機能――思惟の心理学――関係の論理学と心理学

訳注
訳者あとがき――本書の成立をめぐって――
カッシーラー主要著作
文献目録
人名索引

著者略歴

著:エルンスト・カッシーラー
1874-1945。ドイツの哲学者。旧ドイツ領ブレスラウ(現ポーランド領ヴロツワフ)に生まれる。ヘルマン・コーエンの下でカント哲学を学び、マールブルク学派の一人に数えあげられるが、近代認識論史の大著である『近代の哲学と科学における認識問題』(1-3巻、1906-20、4巻、1950〔邦訳『認識問題』全4巻・5冊〕)や『実体概念と関数概念』(1910)で独自の立場を確立。ベルリン大学私講師をへて1919年新設ハンブルク大学教授に着任。さらに『シンボル形式の哲学』(1923-29)で言語・神話・宗教・芸術などを包括する文化哲学の体系をつくりあげた。1933年、ナチスの支配と同時に亡命を余儀なくされ、オクスフォードからスウェーデンをへて、1941年以後アメリカで活躍する。1945年4月、ニューヨークで歿。著書は他に『自由と形式』(1916)『カントの生涯と学説』(1918)『ルネサンス哲学における個と宇宙』(1927)『啓蒙主義の哲学』(1932)『現代物理学における決定論と非決定論』(1936)『人間』(1945)『国家と神話』(1946)などがあり、その多くが邦訳されている。
訳:山本 義隆
1941年、大阪に生まれる。1964年東京大学理学部物理学科卒業。同大学大学院博士課程中退。現在 学校法人駿台予備学校勤務。著書『知性の叛乱』(前衛社、1969)『重力と力学的世界――古典としての古典力学』(現代数学社、1981)『熱学思想の史的展開――熱とエントロピー』(現代数学社、1987、新版、ちくま学芸文庫、全3巻、2008-2009)『古典力学の形成――ニュートンからラグランジュへ』(日本評論社、1997)『解析力学』I・II(共著、朝倉書店、1998)『磁力と重力の発見』全3巻(みすず書房、2003、パピルス賞・毎日出版文化賞・大佛次郎賞受賞、韓国語訳、2005)『一六世紀文化革命』全2巻(みすず書房、2007、韓国語訳、2010)『福島の原発事故をめぐって――いくつか学び考えたこと』(みすず書房、2011、韓国語訳、2011)『世界の見方の転換』全3巻(みすず書房、2014)ほか。

ISBN:9784622086048
出版社:みすず書房
判型:A5
ページ数:488ページ
定価:6400円(本体)
発行年月日:2017年04月
発売日:2017年04月12日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:QDH
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:1DFG
国際分類コード【Thema(シーマ)】 3:1DFA