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超長期GDP推計

再推計に向けた研究集団の長期戦略

著:谷沢 弘毅

紙版

内容紹介

近年のグローバル経済史研究の進展のなか、1人当たりGDPを数世紀という超長期にわたり推計する研究が世界的に開始されている。超長期GDPを使用することで、一国における超長期の経済発展の特徴を他国と比較して厳密に把握できるからである。著者はこの新研究分野がわが国で定着していくことを目指して、最新の研究成果を常時検討してきた。

本書では、わが国の古代から近世に至る十数世紀を対象として、2部構成で詳細な解説をおこなっている。すなわち第1部で先行研究におけるGDPの推計方法やその推計結果を個別に検討し、第2部では推計を担当する研究集団にとっての基本方針、手順・留意点、組織運営、スケジュール管理など、推計作業上の長期戦略を提示する。前著『経済成長の誕生』に引き続き、超長期GDP推計に関する先端研究の第二弾である。

本書は、難解な超長期GDP推計の全体像を詳述することで、経済史分野のみならずグローバルヒストリー、国際経済、低開発経済、地域(アジア等)研究、経済統計など、隣接する実証分野の研究にも寄与することを想定している。また同テーマに関心を寄せる一般の読者に対しても、丁寧に書くことで論点を把握できるよう配慮した。

【主要目次】
緒言―半世紀前の指摘
序章 新研究分野“超長期GDP推計”の台頭―本書の目的・方法

第I部 推計方法に関する諸問題
第1章 多様な推計方法の結集による成果―高島正憲著『経済成長の日本史』の素描
第2章 超長期GDPに関する二人の推計方法―高島正憲とアンガス・マディソンの流儀
第3章 超長期GDPの作成に向けたデータ接続問題―超長期推計における実質化と単位変換
第4章 わが国経済の成長軌道と購買力平価問題―推計値の改善に向けた多様な試み
第5章 同時に進めた『長期経済統計』の改訂作業―第3次産業所得の再推計問題

第II部 研究集団にとっての長期戦略
第6章 超長期推計を改善するための新たな方向性―先行研究『長期経済統計』との比較分析
第7章 超長期GDP推計に関連した最近の主要研究―水鳥川和夫論文と川戸貴史論文に対する若干の論評
第8章 先行した3つの長期統計プロジェクト―アジアLTES事例でみた集団特性
第9章 求められる作業指針と留意点―長期戦略に向けた羅針盤と海図
終章 超長期GDP推計という難題―研究分野の健全な発展に向けて

目次

緒言―半世紀前の指摘
序章 新研究分野“超長期GDP推計”の台頭―本書の目的・方法
第1節 グローバル経済史の新潮流
第2節 本書作成の経緯と目的
2.1.前著の作成経緯
2.2.本書で追加された目的
第3節 採用した分析方法の特徴
3.1.SNA統計の有効性
3.2.歴史的SNAと現行SNA
3.3.LTESの重要性
第4節 慎重さを求められる執筆

第Ⅰ部 推計方法に関する諸問題
第1章 多様な推計方法の結集による成果―高島正憲著『経済成長の日本史』の素描
第1節 本格的な超長期推計の登場
第2節 高島(2017)の書評
2.1.章別の要約
2.2.主要論点の提示
第3節 石高定義の違和感
3.1.石高の対象産出物
3.2.付加価値率の固定問題
第4節 用語使用法への要望
4.1.「プロト工業化」の乱用
4.2.「徳川時代」の拡散
第5節 国際比較統計としての課題

第2章 超長期GDPに関する二人の推計方法―高島正憲とアンガス・マディソンの流儀
第1節 夢の実現方法の解明
第2節 高島推計の手順・体系
2.1.農業中心の第1次産業推計
2.2.人口データによる非1次産業推計
第3節 高島推計値の疑問点・改善点
3.1.中世の農業生産額
3.2.近世の第1次産業生産額
3.3.古代以降の非1次産業生産額
3.4.国際比較用のデータ加工
第4節 マディソンの国際比較統計
4.1.三段ロケット方式の考案
4.2.1990年国際ドルの採用
4.3.14世紀分岐説の提起
第5節 長期間を要する改善作業

第3章 超長期GDPの作成に向けたデータ接続問題―超長期推計における実質化と単位変換
第1節 データ接続の説明不在
第2節 横のデータ接続の推測
2.1.石高法による実質化
2.2.石高表示の特性
第3節 縦のデータ接続の推測
3.1.期間別データの概要
3.2.国民概念から国内概念へ
3.3.超長期データへの加工
第4節 関連データの追加公表
4.1.「本表」と「付表」
4.2.プロセス・データの重要性
第5節 多様なデータ接続問題

第4章 わが国経済の成長軌道と購買力平価問題―推計値の改善に向けた多様な試み
第1節 近景遠景論という視点
第2節 経済成長の特徴と疑問点
2.1.古代・中世の注目点
2.2.近世・国際比較の注目点
第3節 推計方法の改善への試み
3.1.篠原三代平の挑戦
3.2.超長期統計への応用
3.3.推計作業上の留意点
第4節 購買力平価問題の一解法
4.1.注目すべき生存水準倍率法
4.2.生存倍率比較法の提案
第5節 梅村又次の視線の先

第5章 同時に進めた『長期経済統計』の改訂作業―第3次産業所得の再推計問題
第1節 長年の懸案事項に着手
第2節 所得再推計までの経緯
2.1.産業別有業者数の各種推計
2.2.攝津斉彦による所得再推計
第3節 商業サービス業Bの副業者問題
3.1.本業・副業者の実態
3.2.LTESと攝津の副業者推計法
3.3.攝津推計法に対する新解釈
第4節 全面改訂への長い道のり
補論 1920年の商業サービス業Bにおける本業副業者比率の考え方

第Ⅱ部 研究集団にとっての長期戦略
第6章 超長期推計を改善するための新たな方向性―先行研究『長期経済統計』との比較分析
第1節 一段落した推計作業
第2節 LTESからみた再推計課題
2.1.専門概念の検討
2.2.研究作業の工程管理
2.3.多角的な分析体制
第3節 研究組織の設置問題
3.1.前著出版後の関連情報
3.2.各種の組織設置形態
第4節 テーマ・共同作業の難しさ

第7章 超長期GDP推計に関連した最近の主要研究―水鳥川和夫論文と川戸貴史論文に対する若干の論評
第1節 相次ぐ関連研究の公表
第2節 古代の高生産性農業
2.1.水鳥川推計の登場
2.2.水田生産力の比較分析
第3節 中世後期の幣制混乱
3.1.近年の貨幣史研究の成果
3.2.GDP推計派と同床異夢
第4節 関連分野の育成強化

第8章 先行した3つの長期統計プロジェクト―アジアLTES事例でみた集団特性
第1節 継続された歴史統計研究
第2節 アジアLTESの長い道程
2.1.アジアLTESプロジェクト
2.2.Hi-Stat プロジェクト
2.3.高度Hi-Stat プロジェクト
第3節 アジアLTESの出版事情
3.1.開始8年目の計画発表
3.2.出版内容の個別特徴
第4節 超長期再推計に向けた経路
4.1.超長期推計に至る道筋
4.2.高島の研究スケジュール
4.3.2つの再推計シナリオ
第5節 長期戦略の重要性

第9章 求められる作業指針と留意点―長期戦略に向けた羅針盤と海図
第1節 一般読者層への着実な浸透
第2節 共同作業の具体的指針
2.1.作業過程上のガイドライン
2.2.作業環境上のガイドライン
第3節 作業・解釈上の留意点
3.1.家計部門での帰属計算
3.2.記述・非記述情報の活用
3.3.人口とGDPの相互依存性
3.4.戦乱の多様な影響
第4節 再推計時期の検討
4.1.研究者の関心の高まり
4.2.石高定義の変更の影響
第5節 研究加速化の成否

終章 超長期GDP推計という難題―研究分野の健全な発展に向けて
第1節 期待と不安の間で
第2節 薄い関心の緩やかな変質
2.1.マディソン著書の低調な受容
2.2.一橋大による名誉博士号の授与
第3節 本書の概要
3.1.第Ⅰ部:推計方法の諸問題
3.2.第Ⅱ部:長期戦略の諸課題
第4節 同時進行上の課題
第5節 どこへ行く超長期推計
後記―少々長めの解題
謝辞
初出一覧
索引

ISBN:9784561860563
出版社:白桃書房
判型:A5
ページ数:514ページ
定価:6364円(本体)
発行年月日:2021年03月
発売日:2021年04月16日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:KCA