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FCバイエルンの軌跡

ナチズムと戦ったサッカーの歴史

著:ディートリヒ・シュルツェ=マルメリング
訳:中村 修

紙版

内容紹介

ホロコーストの記憶を刻む、ドイツ王者120年の歴史。

 ブンデスリーガ九連覇を果たし、最多優勝記録保持者(レコードマイスター)を誇るFCバイエルン・ミュンヘン。いまや強豪クラブチームとして勇名を轟かすが、歴史を築いた選手や指導者たちにユダヤ系の人びとが数多く存在したことはあまり知られていない。ドイツ選手権初制覇はユダヤ人会長とユダヤ人監督のもと成されたのだが、FCバイエルンを王座に導いたユダヤ人たちは〈敬われ、迫害され、忘却されて〉きた。
 1933年4月9日、ドイツでは、主要なサッカークラブが声明を発表する。それはナチスの政治体制への協力を申し出るもので、スポーツクラブからの「ユダヤ人排斥」に関するものであった──。
 本書はFCバイエルンとそのクラブに関わったユダヤ人たちを顕彰し、世界史の闇のなかに葬り去られてきた「ナチス時代におけるサッカー界の実情」を描き出した、画期的な歴史書。読み物としての面白さもそなえている。ドイツのサッカー王者120年の歴史。
 「ナチズムが台頭する時代のサッカー」を詳らかにすることで、「ホロコーストの記憶」を刻印する、現代史の一級資料。人名解説索引・写真多数収録。木村元彦さん推薦。

目次

序章 ユダヤ人、サッカー、そしてFCバイエルン
 ドイツ—ユダヤという関係の発端/ユダヤ人のサッカーパイオニア──ヨーン・ブロッホとヴァルター・ベンゼマン/成果主義社会と反ユダヤ主義/FCバイエルンとそのユダヤ人たち/リベラルなサッカー文化の崩壊とスポーツの没落/遅れてきた最多優勝記録保持者
第1章 フライブルクからミュンヒェンへ──ユダヤ人のサッカーパイオニアたち
 フライブルクの代父たち──グス・マニングとエルンスト・ショッテリウス6/フライブルクのユダヤ人──リーフマン/南ドイツのパイオニア──ヴァルター・ベンゼマン/ミュンヒェン抜きのドイツサッカー連盟(DFB)/二人のユダヤ人と一人のプロイセン人/ここを出て行けば、もっと強くなれる/11+6=FCバイエルン/フライブルク、シュヴァービング、そしてマックスフォーアシュタット/サッカーのパイオニア、ミュンヒェンを去る/「約束の地」にて
第2章 デビュー、開幕戦、「伝染病」
 オランダからの補強/スター、そして会長となった外国人選手/試練の時/南ドイツサッカー界のユダヤ人/タウンリー、ホーガン、そして洗練されたパス/プロフェッショナリズムに向けた最初のステップ/ランダウアー、タウンリーを引き抜く/第一次世界大戦/ユダヤ人解放に向けて、そして「不寛容という福音」/ユダヤ人の愛国心/ランダウアー、前線に赴く/ある調査とその結果
第3章 反ユダヤ主義と「現代のパイオニア」
 「ユダヤ共和国」/反ユダヤ主義の狂乱/近代のパイオニアたち/「シュラッペ=シュティネス」とその他の後援者たち/ランダウアー──「先見の明をもって……」/「若者あるところに未来あり」/『キッカー』──スポーツによる民族理解/国際的なスポーツ交流/スポーツ史における転機/アンチリベラリズム
第4章 ミュンヒェンにおけるハンガリー
 「エレガント」で「科学的」/最上級のチーム/サッカーによるデモンストレーションとその結果/プロ選手と反ユダヤ主義者/「サッカー王」ミュンヒェンの人となる/シャッファー—ルーデンドルフ1—0/ハンガリーの巨匠/文化の流入
第5章 イデオロギーとプラグマティズムのせめぎ合い
 職業(プロ)サッカー/バイエルンを築いた男、フライブルクの救世主となる/イデオロギーを掲げる者たち/プロ選手への圧力/DFB対FCバイエルン/ひとつひとつ、壁を乗り越えて/「ユダヤ人によるプロジェクト」?
第6章 時代の激流に立ち向かう王者
 ボールを持った反逆者/待望の人物来たる/高価で斬新/マイスターシャフト・ファイナルを目指して/プロフェッショナルにふさわしい準備/自転車で決勝の地へ/「ドイツ最強のチーム」/歓喜に沸くミュンヒェン/後味の悪い結末
第7章 政治とサッカーにおける新たな秩序
 ハーリンガーとローア、ともに代表戦で結果を残す/「辞任」/茶色に染まった「青の選手たち」/「ユダヤ人の追放」/ユダヤ系スポーツクラブの見せかけの栄華/成功を渇望する者と策略をめぐらす者/優秀な指導者、次々とドイツを去る/アルフォンス・ベッケンバウアー──労働者アスリートから「市民階級の」フットボーラーへ/ドイツスポーツ界の新たな秩序/「純然たるアマチュアスポーツ」への回帰/大管区リーガの創設/プロ選手オスカー・ローア
第8章 ハーケンクロイツのもとでのサッカー
 エルンスト・ヴィリモフスキーとの出会い/「オッシィ」・ローアとの再会/ローマ・スキャンダル/ナチスとともに危機的な状況へ/ウィーンという悪夢/ハーリンガー、ワールドカップ1934の地に立つ/オーバーリーガ──先駆者としての南ドイツ/国際舞台への復帰/反ランダウアー派/スポーツ面で結果を残せず/古き時代からのラストメッセージ/リヒャルト・ドンビーの思い出
第12章 自らの歴史を辿る長い道のり
 一冊の本とそれがもたらしたもの/クルト・ランダウアーと忘却/ドイツサッカー史への復帰/「いささか気まずい」/テル・アヴィヴからテヘランへ/伝統を胸に刻んだ熱狂的なサポーターたち/ダッハウにて/ルンメニゲ、ランダウアーに敬意を表する/映画『キック・イット・ライク・クルト』/プラネッグに還って/マッカビ/FCバイエルン──友として、支援者として
第13章 さらに先へ、そして「もう二度と!」
 展覧会《敬われ—迫害され—忘却されて》/「FCバイエルン対MTK」から一〇〇周年を迎えて、そして反ユダヤ主義の現在ハンガリーでは……/一方、ドイツでは……
終章 修道院の壁の向こうで──憶測から生まれた「歴史家論争」について一言
 何ら新しいものではない/騒動としてのスポーツの歴史/フェアではない/ひとつずつ
伝統の継承者たち──訳者あとがき
主要人名索引/謝辞/参考文献

著者略歴

著:ディートリヒ・シュルツェ=マルメリング
ドイツを代表するサッカージャーナリスト・サッカー史研究家。本書にて、ドイツサッカー文化研究所より、サッカー書籍年間最優秀賞を受賞。
訳:中村 修
1968年6月29日生まれ。名古屋大学大学院文学研究科修了 博士(文学)名古屋大学、愛知県立大学、愛知工業大学、名古屋外国語大学、愛知学院大学において非常勤講師としてドイツ語、ドイツ文化事情を担当。

ISBN:9784560098721
出版社:白水社
判型:4-6
ページ数:510ページ
定価:4800円(本体)
発行年月日:2021年11月
発売日:2021年11月01日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:SF