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井上哲次郎と「国体」の光芒

官学の覇権と〈反官〉アカデミズム

著:杉山 亮

紙版

内容紹介

学者たちの戦争、そして帝国の崩壊

 加藤弘之が創り上げ、井上哲次郎に継承された官学アカデミズムは、煩悶青年が社会問題化した日露戦後、生命主義に傾倒していく。
 しかし、国体論に「無意識」を取り入れる試みは、東京帝大の心理学者、福来友吉の念写実験が巻き起こした社会的混乱によって絶たれ、官学アカデミズムは歴史へと回帰することになる。
 他方、大正デモクラシーの潮流のなかで国体を語る裾野は広がっていく。
 早稲田の漢学を中心とした私学勢は、南北朝正閏問題や宮中某重大事件、大東文化学院の運営をめぐって、官学アカデミズムが彫琢した国体論に揺さぶりをかける。
 とりわけ、大東文化学院の覇権を争う戦いは熾烈をきわめた。漢学教育の再興を目指す早稲田と、それを封じようとする官学アカデミズムの争いは、「暴力専門家」も動員しながら、井上の不敬事件やテロをも誘発していく。
 あとの時代から見ると、「国体」と聞くだけで、狂信的な雰囲気が漂うが、そこには「国体論的公共性」とも呼ばれる広範な討議空間もあった。暴力に覆われる前の思想空間を辿り直す稀有な試み。

目次

序章
 一 「国体」の時代
 二 井上哲次郎の生涯
 三 Cheapなvillain —— 同時代の評価と先行研究
 四 本書の構成
第1章 官学アカデミズムの舞台転換
 一 進化と道徳法律
 二 井上哲次郎の“世界観”
 三 井上哲次郎 vs 加藤弘之
第2章 生命主義の蹉跌
 一 心理学者、福来友吉
 二 時代の病とその処方箋
 三 福来友吉の追放
第3章 歴史への回帰
 一 “宗教”の新しい語り方
 二 宗教(性)利用論の展開
 三 歴史への回帰
第4章 デモクラシーの時代へ
 一 新時代の模索
 二 第一次世界大戦
 三 国民道徳の改造
第5章 青史と稗史の交錯
 一 松平康国と牧野謙次郎
 二 反官的国家主義
 三 学院紛擾と不敬著書事件
補 章
 一 東亜協会の概要
 二 東亜協会の活動
 三 東亜協会の参加者
終 章 井上哲次郎の死
 あとがき/参考文献/索引

著者略歴

著:杉山 亮
1991年生まれ。2014年、明治大学政治経済学部卒業。2016年、首都大学東京大学院社会科学研究科修了。2021年、東京都立大学大学院社会科学研究科修了。博士(政治学)。現在、東京都立大学法学部助教。専門は日本政治思想史。主な論文に「明治期における儒学言説に関する一考察:井上哲次郎『儒学三部作』について(一)」(『法学会雑誌』第58巻第1号、2017年7月)など。

ISBN:9784560094914
出版社:白水社
判型:4-6
ページ数:324ページ
定価:3600円(本体)
発行年月日:2023年03月
発売日:2023年03月25日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:QDX