すばらしい孤独
ルネサンス期における読書の技法
著:リナ・ボルツォーニ
訳:宮坂 真紀
内容紹介
本書はおもにルネサンスの人文主義者たちを読者という観点から捉え、彼らの読書行為と著作との関係を読み解こうとする試みである。
古代ローマのキケロやセネカの時代から、著作は「魂の肖像」と考えられ、ルネサンス期に古典を読むことは、いにしえの知性との、孤独な空間における、文字通り対話であった。ペトラルカは千年以上前の著者たちにあてて手紙を書き(書簡集が残っている)、芸術家のパトロンとして名高いウルビーノ公フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロは、古代から同時代までの著作家たちの「肉体の肖像」二八点を描かせて書斎に飾った。本書では、それら肖像画を含む図版五五点をカラーで収録し、まさにフェデリーコら当時の文人がしたように「肉体の肖像」を見ながら「魂の肖像」を考えるかたちで論じられる。
読書と創作をめぐる著者の考察は、論述の対象を特定の著者や作品に絞り込むのではなく、読書と創作を切り口にルネサンスの人文主義者たち(そして、プルーストまで)を有機的に結び付けているところに既存の研究とは異なる特徴があり、ルネサンスと古典との関わりに新たな視点を与えてくれる。
[4色刷]
目次
序
第1章 ペトラルカ――図書室という魔術的空間
1 「私は本に飽きることがありません」
2 読書の痕跡
3 「私といっしょにキケロが来た」
4 現在からの追放、そして読者との協定
5 図書室の危険と心に響く古代の人々の甘美なことば
第2章 身体としてのテクストと古代の人々の復活
1 「汚れた、ひどく惨めな姿で」――ボッカッチョとマドンナ・フィアンメッタの手稿
2 「新しいアスクレピオスの私」――ボッカッチョと古代の神々
3 解体され再構築された身体――人文主義者たちとクィンティリアヌスの出会い
4 「こうして私は暮れゆく日の時間を延ばす」――ポリツィアーノ、書架の魔術、オルフェウスの神話
5 「この困難で残酷な人生の救済の糸口」――読書の慰め
6 ベンボ、ラッファエッロ、そして八つ裂きにされたローマの身体
第3章 肖像、あるいは作者を見たいという望み
1 魂の肖像と顔の肖像
2 「ホメロスに会いたい」――書斎の肖像画たち
3 フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロの書斎――読書の劇場
◆書斎の肖像画
4 エラスムスと肖像の限界
5 友人たちの肖像――対話のつづき
6 パオロ・ジョヴィオの収集熱とガブリエル・ノーデのよそよそしさ
第4章 「精神のありのままの像を映し出さないなら、その鏡は偽りとなる」――読むこと、書くこと、そして自我の確立
1 自分探しのための本の渉猟――模倣についての論争
2 エラスムスと読者との協定
3 御ことばとの出会いとしての読書
第5章 「古の人々が集う古の宮廷に」――マキャヴェッリからヴェットーリへの手紙
1 不釣り合いなやりとり
2 整えられた行程、論争的な鏡映
3 対照的なふたりの読者
4 エロスの痛ましい勝利
第6章 モンテーニュの塔
1 追憶と自由の場所としての図書室
2 「選り抜きの魂たちを自らの内に宿す」――古代の人々との対話の魅力と危険
3 「私が描くのは私自身」――絶えず変化する肖像画
4 グロテスクな額縁、中は空っぽ
5 「わたしがこの書物を作ったというよりも、むしろ、この書物がわたしを作ったのである」
第7章 「想像力とは内なる感覚なのだから」――タッソと読書にともなう危険
1 図書室という小宇宙
2 「私にとって本は命と同じくらい大切」
3 「激しく不快な憂鬱に陥りかけて」
補遺 「孤独の中のコミュニケーションである読書のすばらしい奇跡」――ラスキンとプルースト
訳者あとがき
図版一覧
原注
人名索引