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戦争トラウマ記憶のオーラルヒストリー

第二次大戦連合軍元捕虜とその家族

著:中尾 知代

紙版

内容紹介

日本軍が与えた、今も残る痛みに向き合い、真の和解を考える――
本書は、英国(イギリス)・オランダ・アメリカを主なフィールドとして、第二次世界大戦で日本軍の捕虜あるいは民間人抑留者となった者とその家族のトラウマをオーラルヒストリーの手法を用いて、つぶさに調査・分析したものである。

目次

第一章 元捕虜・民間人抑留者問題とは何か

    連合軍元捕虜・民間人抑留者とは
    ゴボウと木の根
    精神的後遺症
    英国の戦後の捕虜団体
    捕虜たちの抗日運動――日本を訴える裁判
    英国の元民間人抑留者
    日本に対する英国の怒り――日英の意識のずれ
    残酷な日本人
    VJデイの祭典――一九九五年の狂騒曲
    旧オランダ領東インドの元民間人抑留者
    EKNJとJES――オランダの元民間人抑留者と元捕虜の団体
    二〇〇〇年の天皇皇后オランダ訪問とデモ
    献花をめぐるオランダと日本の意識のずれ
    泣き崩れた女性
    もう一つのデモ
    アメリカの捕虜・抑留者問題
    日本に対する裁判と謝罪・補償
    ホロコーストと連合軍捕虜虐待の重なり
    原爆が捕虜と民間人を救ったという観点について――捕虜抹殺命令
    アメリカ人の元民間人抑留者

第二章 元捕虜たち・男たちの経験

    東京の収容所に囚われたデイヴィッド・ウィルソン
    日本人男性の「殴る文化」?
    矛盾した日本人?
    「地獄船」りすぼん丸に乗った捕虜フランク・ベネット
    今も残る痛み
    金瓜石収容所の捕虜たち
    日の丸を焼いたジャック・カプラン
    元民間人抑留者たちの声
    オランダの民間人抑留者――「豚籠事件」
    二次的被害者――収容所を解放したビルマ戦退役軍人の例

第三章 元捕虜の妻たち

    妻・未亡人の苦しみ
    悪夢・フラストレーションの共有
    離 婚
    暴力の連鎖
    性と男性の不妊
    病気の看護
    共有できない経験
    夫側の気持ち
    共有するための努力
    ジャック・カプランの妻クローディア、語る
    スコティッシュ・ウィドウ
    空色の目のチア・リーダー、アイリス・ティザリントン
    女たちの語り方
    妻たちの敵意
    妻の語りが崩す「国民の神話」「男性/夫の神話」

第四章 〈父の娘〉の戦争

    父の娘
    モニュメントを作る娘たち
    元捕虜に付き添う娘
    父のトラウマを内面化する娘たち
    赦すが、忘れない
    消えた娘たち
    リンダ・ローマクスの例のフロイト的解釈
    本を紡ぐ娘
    感情と痛みの共有
    父を理解したい娘たち――距離を埋めるために
    吸収される娘の生
    怒りを受け継ぎ、問い続ける娘たち
    会議・展示館・伝記――記憶の継承を行う娘たち
    息子の立場――捕虜の娘と息子の対比
    ミッシング・ピース

第五章 トラウマ記憶の諸相

    トラウマ記憶とは
    捕虜たちのトラウマ記憶
    政府から出された「捕虜経験を語るな」という命令
    複雑性PTSD
    NICEについて――DSMを捕虜のトラウマ判断に用いるわけ
    DSM‐5と捕虜・民間人抑留者経験
    記念日をトリガーとするトラウマ
    「日本」を回避すること
    日本製品への嫌悪、日本からの「遁走」
    自己否定につながるトラウマ
    怒りの暴発 
    狭い空間に閉じ込められた男性集団の人間嫌い
    有罪意識・恥 
    DSM‐5のD基準とICD‐11の複雑性PTSD
    サバイバーズ・ギルト(生き残りの罪責観)と信仰
    トラウマの再体験――悪夢による想起
    夢により再起・想起され続ける「体験」の記憶
    悪夢から覚める経験
    トラウマ解消のための日本政府告訴
    末期の悪夢が再起させる「経験」
    フラッシュバックと想起
    対象の混同・憎悪観の転移
    女性・家族に移譲されるストレス
    元捕虜対日本の関係と、児童虐待における親子関係の類似性
    元捕虜と和解・癒し
    PTSDと「賠償神経症」――元捕虜が訴える理由

第六章 元捕虜たちの語りと記憶の信ぴょう性

    トラウマ記憶の精度
    トラウマ記憶のジェニュイン性(genuineness)――誇張や虚偽について、英国の場合
    捕虜と「いじめ」
    「告白」の文化圏と、語りの真実性、ジェニュインであることの大切さ
    なぜ今になって語るのか――戦争経験高齢者の記憶の信ぴょう性
    継承への願い、懺悔・悔悟の思い、疑問・誤解を避けたいために真実を語る傾向
    記憶の選択性と抑圧された記憶の記録部位
    記憶違いとその意味合いについて
    「記憶違い」の可能性をもつ記憶の検証
    悪夢の記憶――赤子殺し
    伝聞記憶が広まる理由
    「記憶違い」を辿って事実確認に利用できる場合
    タマキ――三つの「証言」の中の監視兵
    語り手の年齢差・視野
    記憶を組みあわせること

第七章 トラウマ記憶を語るということ・聴くということ

    戦争とジェンダー・エスニシティ――語り手と聴き手のラポール形成
    元捕虜との関係
    女性民間人抑留者との関係――ジェンダーとポストコロニアリズム
    「慰安婦」女性との関係性
    オーラルヒストリーでトラウマ記憶を聴く場合の立場の置換
    元捕虜の語りの特徴
    出身地域の差――気質、体質、連合国の間の文化差異、被植民地化の体験
    語りにおけるユーモア
    トラウマ記憶を語る・辿ることの意味
    語りと癒し
    癒し・セラピーとの共通性
    セラピーによる記憶変化と戦争責任――セラピーの可否
    「謝罪」「賠償」のセラピー的意義について――日本不信を癒すために
    戦争のオーラルヒストリーにおける共感疲労と代理受傷――聴き手の受けるトラウマ
    代理受傷
    聴き手の受傷――罪悪感とモラル・インジャリー
    家庭に持ち込まれるストレス連鎖
    オーラルヒストリー調査に伴う他の苦痛
    場と語り――元捕虜のオーラルヒストリーの方法
    ビデオカメラを用いるオーラルヒストリーの特徴
    聴き手のさまざまな工夫――加減する女性らしさ
    語り手との距離・区切り
    陰の支え

    おわりに

著者略歴

著:中尾 知代
岡山大学大学院社会文化科学研究科行動科学学科目准教授。
1960年生まれ。奈良女子大学英文科から英国ウォリック大学史学科に留学後、東京大学修士課程修了。岡山大学教養部に奉職し、文学部に移籍後、ブリティッシュカウンセル奨学生としてエセックス大学に留学。外務省専門調査員を勤める。岡山大学に勤務しつつ研究を続け、2016年にPh.D.取得。JOHA(日本オーラ ル・ヒストリー学会)の設立人・理事・研究活動委員長、国際オーラルヒストリー学会アジア評議員を歴任。2006年オックスフォード大学フェロー、2015年度 フルブライト・リサーチ・フェローとしてコーネル大学を拠点に捕虜・抑留者研究を行う。日本トラウマティック・ストレス学会会員。
主著に『日本人はなぜ謝りつづけるのか』(NHK出版、2008)、共著に『歴史の壁を超えて―和解と共生の平和学』(法律文化社、2004)、『レジリアンス・文化・創造』(金原出版、2012)などがある。

ISBN:9784535587489
出版社:日本評論社
判型:4-6
ページ数:384ページ
定価:3400円(本体)
発行年月日:2022年07月
発売日:2022年07月20日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:NHF
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:1FPJ