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上級国際貿易

理論と実証

著:ロバート・C・フィンストラ
監:伊藤 元重
訳:下井 直毅

紙版

内容紹介

人間は自分たちの生活を豊かにするために古くから貿易を行ってきました。しかし、広く貿易が行われるなかで、海外の安い製品が大量に入ってきて、自国産業がダメージを受け、失業が増え、大問題になることもしばしば起こります。そのために、政府は関税を引き上げたり、輸入規制を行い、自国産業を保護しようとします。そして、こうした政策をお互いの国がとることで貿易紛争が生じます。また今日では、企業の活動が多国籍化し、複雑化しているため、国際貿易の理解は一筋縄ではいきません。経済学の初級レベルで学ぶ、リカード定理やヘクシャー=オリーン定理だけでは、現実の国際貿易を理解することはなかなか難しいのです。
本書は、国際貿易に関する理論と実証双方の最新の研究を学んで理解してもらうことを目標としています。それによって初めて、現実の貿易の世界で起こっていることと経済理論を整合的に理解できるのです。読者対象は主に大学院生ですが、この本は決して難しいものではなく、米国のみならず、世界中の多くの大学でテキストとしてで用いられています。
日本に関わる事例としては、1980年代の日米自動車摩擦が取り上げられています。米国内で起こった日本車の輸入規制の要求が、日本の自動車メーカーによる輸出自主規制という形で実施され、さらにその後、日本メーカーが米国内に工場を建て、生産を行い、米国内の雇用を生み出していきました。本書では、この事例について理論と実証を見事に組み合わせて説明しています(第8章)。また、貿易政策の政治経済学(第10章)では、国民世論が政策に反映される中位投票者モデル、ロビー活動によって影響を受ける保護の販売モデル、そして政策が非民主的に決定される中国モデルに分け、どのように貿易および貿易政策が展開していくかを、これも理論と実証双方の研究を紹介しながら説明しています。
この本を使って国際貿易論をぜひマスターしてください。

目次

謝 辞
序 文
監訳者まえがき

第1章 序 論:2部門モデル
リカード・モデル
2財2生産要素モデル
GDP関数
均衡条件
生産要素価格の決定について
生産物価格の変化
要素賦存量の変化
要素価格均等化定理の再検討
要素集約度の逆転
まとめ
補論:ラーナー・ダイアグラムと生産要素価格
演習問題

第2章 ヘクシャー=オリーン・モデル
ヘクシャー=オリーン=サミュエルソン・モデル
レオンチェフの逆説
ヘクシャー=オリーン=ヴァネック・モデル
ヘクシャー=オリーン=ヴァネック定理の部分検定
ヘクシャー=オリーン=ヴァネック定理の完全検定
国ごとに技術が異なるときのモデル化
貿易に関するその他の検定
まとめ
演習問題

第3章 多数の財と生産要素
均衡条件
財と生産要素の数が同数の場合
財よりも生産要素が多い場合
GDP関数の場合
財の数が生産要素の数よりも多い場合
財の連続性:リカード・モデル
貿易の利益
財の連続性:ヘクシャー=オリーン・モデル
あらためてヘクシャー=オリーン=ヴァネック・モデルを推計する
まとめ
演習問題

第4章 中間投入財の貿易と賃金
米国の製造業において観察される事実
要素偏向技術進歩と部門偏向技術進歩
中間投入財の貿易
定式化した賃金方程式
1990~2000年の実証
仕事の貿易
米国の実証結果
スーパーモジュラー生産
まとめ
演習問題

第5章 独占競争と重力方程式Ⅰ
独占的競争モデル
米加自由貿易協定から導かれた証拠
輸入製品の多様化による利益
多様な製品を貿易することで得られる利益
重力方程式
米国とカナダの国内および国家間の貿易
重力モデルにおける国境効果
重力方程式の推計
国内市場効果
まとめ
補論:代替の弾力性の計測について
演習問題

第6章 独占競争と重力方程式Ⅱ
異質な企業が存在する場合の独占的競争について
閉鎖経済(自給自足経済)均衡
貿易均衡
メリッツ=チェイニー・モデル
貿易による利益
重力方程式
ゼロ貿易状態
ふたたび重力方程式を推計する
貿易費用と貿易の弾力性の推計
まとめ
演習問題

第7章 貿易の利益と地域貿易協定
一括払いの所得移転
商品への課税と補助金
部分的な関税の改正について
地域貿易協定
地域貿易協定の実際例
不完全競争と規模に関する収穫逓増の影響
まとめ
演習問題

第8章 輸入関税とダンピング
GATT/WTOのもとでの関税
社会的厚生
完全競争市場(小国の場合)
完全競争市場(大国の場合)
外国企業だけが存在する独占市場
ク―ルノーの複占
ベルトランの複占
日本製のトラックとオートバイへの関税
交易条件効果の推計
関数形式の分析
幼稚産業の保護
ダンピングについて
双方向ダンピング
貿易の厚生効果
ダンピング防止関税の影響
まとめ
演習問題

第9章 輸入数量割当と輸出補助金
関税と数量割当の同等性について
不完全競争に起因する非同等性
品質選択に起因する非同等性
自由貿易における均衡
多製品を扱う企業による価格付け
輸出の自主規制
貿易財の品質と測定
輸出補助金
完全競争の場合
財が多数ある場合
不完全競争下の補助金
民間航空機への補助金
まとめ
演習問題

第10章 貿易政策の政治経済学
中位投票者モデル
保護の販売モデル
内生的なロビー活動
2国モデル
自国市場の効果
地域貿易協定
中国における対海外投資の政治経済学
まとめ
演習問題

第11章 貿易と内生的成長
生産性の計測
窮乏化成長
内生的成長
規模の効果がない場合の成長
実証結果
まとめ
演習問題

第12章 多国籍企業と企業組織
1部門経済の資本移動
2部門のヘクシャー=オリーン・モデルにおける資本移動
垂直的多国籍企業と水平的多国籍企業
知識資本モデルを推定する
生産性が異なる企業を抱えた水平的多国籍企業
企業組織
不完全情報について
まとめ
演習問題

著者略歴

著:ロバート・C・フィンストラ
カリフォルニア大学デービス校教授
監:伊藤 元重
学習院大学国際社会学部教授・東京大学名誉教授
訳:下井 直毅
多摩大学経営情報学部教授

ISBN:9784535559158
出版社:日本評論社
判型:A5
ページ数:610ページ
定価:6500円(本体)
発行年月日:2021年07月
発売日:2021年07月19日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:KCL