ファシズムとロシア
著:マルレーヌ・ラリュエル
訳:浜 由樹子
内容紹介
冷戦終結から30余年、欧米主導の一極化した国際秩序への反発から、世界各国で反リベラリズムの潮流が湧き起こっている。そんな中、プーチン・ロシアは、ウクライナへの軍事的干渉、クリミアの併合をはじめ旧ソ連の周辺諸国に対して軍事的圧力をかけるなど強権的な言動をとり続け、国際秩序に揺さぶりをかけている。そのようなロシアの行動は、西側諸国からファシズムと批判されている。本書は、「ファシズム国家」とのレッテルが貼られるロシアを、幅広い視野から冷静に分析、プーチン体制の構造とロシアの地政学的戦略をわかりやすく読み解く。今のロシアを、そしてヨーロッパの将来を占うための必読書であり、混迷する国際情勢の分析にとって貴重な手がかりとなる作品である。
目次
日本語版への序文 マルレーヌ・ラリュエル
序章 ロシアとファシズムをめぐる情景
「ファシズム」というレッテル貼りの横行
政治的戦略の存在
ファシズムとヨーロッパにおけるロシアの立ち位置
第1章 ロシアはファシズムか あるいは反リベラリズムか
ファシズムの定義
「ロシア・ファシズム」論へのアプローチ
反リベラリズムの台頭と現在のファシズム論争
三つの層からロシアのファシズムを読み解く
第2章 ソ連時代のファシズムを検証する
第二次世界大戦の強力な叙事詩の構築
政治的利用されるファシズム
ナチ・ドイツへの秘めた魅惑
ナチ・プロパガンダ
犯罪者文化
映画と文化
国家機構におけるナショナリズムの台頭
第3章 プーチン下で復活した反ファシズム
戦争叙事詩の改編と新たな伝統の創造
ファシズムについての教育と研究――教科書問題と学術的論争
ロシア世論におけるファシズム観
第4章 記憶をめぐる戦争
中・東欧の歴史叙述を作り変える
「共産主義版ニュルンベルク」実現に向けて
ロシアの反応
ウクライナ2014――大祖国戦争の再来
第5章 プーチン体制の構造を読み解く
ハイブリッドで場当たり的な体制
軍産複合体――ソ連スタイルの教化を求めて
正教界――ツァーリズム、反革命亡命者、そして黒百人組
第6章 ロシアのファシズム ――思想家たちと実践者たち
ロシアの極右――常に傍流
武装組織の台頭と美化される自警団文化
ファシズムを教義として復活させる
第7章 ヨーロッパ極右とロシアの蜜月
ロシアのヨーロッパ寄りアヴァン・ギャルド
2000年代の転換――「ロージナ(祖国)」とモスクワ総主教庁
第三の波――クレムリンの新たなヨーロッパ同盟者探し
第8章 なぜロシアはファシズム国家ではないのか
歴史のアナロジーを脱構築する
「プーチンはファシストではない」
ユートピア的思想の欠如
エスノ・ナショナリズムでもなく、帝国主義でもなく、ポスト・コロニアリズム
極右とクレムリンの微妙な関係
ファシズムではロシアは理解できない
終章 ロシアの記憶とヨーロッパの将来
ファシズムのレッテルが教えること
ヨーロッパの名の下で西側に挑む
ヨーロッパ・アイデンティティをめぐるロシアのジレンマとファシズム
謝辞
訳者解説 浜 由樹子
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