ちくまプリマー新書 378
生きのびるための流域思考
著:岸 由二
内容紹介
予想以上の雨が日本列島を襲っている。頭上の雨だけでは水土砂災害は分からない。雨は流域で集められ、災害を引き起こす。いまこそ、流域思考を身に着けよう!近年、水土砂災害が急増した第一の理由は、強い雨が増えていることです。これからの50年、100年、200年にも及ぶ深刻な地球温暖化の表れだという意見も有力です。現状は、数十年間隔の気象変動のレベルという解釈も完全に否定されているわけではありませんが、いずれにしても、ここ10年の動きを見ていると、今までの常識では対応できない豪雨が増えていることは事実です。この傾向はこれからも続くと考えておくべきでしょう。わたしたちは、すでに温暖化豪雨時代の入り口にいるのかもしれない。そう判断し、対応していくほかないと、思われます。ところが、現状はその緊急事態とも言える状況に、社会が長きにわたり、適切に対応できずにきたのです。一般社会のレベルだけでなく、報道や自治体のレベルでも同じことが言えるのです。――「長いまえがき」より岸由二 豪雨 豪雨災害 生きのびるための流域思考 流域 流域地図「流域思考」とは?雨の水を川に変換する大地の構造のことを「流域」と呼びます。豪雨が引き起こす水土砂災害は、大小のスケールにかかわらず、「流域」という地形や生態系が引き起こす現象です。日本の利用可能な土地はほぼ河川の流域に属しており、流域は行政区域に関係なく広がっています。行政によるハザードマップだけではなく、この「流域」を枠組みとした「流域思考」を知ることで、豪雨による災害にきちんと備えることができるようになるのです。イラスト/たむらかずみ
目次
【目次】長いまえがき〈なぜいまこの本を出版するのか〉豪雨災害の時代がはじまっている/「流域」を知らないと命が危ない/足元の「流域」から都市を考える第一章 流域とはなにか1 流域の基本構造地球は水循環の惑星だ/流域を多面的に理解しよう/流域がつくり出す流水の姿2 流域の水循環機能流れる水と地面の関係/雨水はどのようにして川の水になるのか3 「流域」の機能を理解するための基礎知識ハイドログラフって?/降雨のパターンで見てみよう/保水と遊水/大きな森は大きな保水力を持っているから安全/急傾斜の流域では/流域の形と流出パターン/雨のパターンで考える4 流域治水の時代がやってきたなぜ流域治水へと大転換したのか/あふれさせる治水とは〈コラム〉流域という日本語について/流域の英語について/河川・水系・流域/洪水第二章 鶴見川流域で行われてきた総合治水1 鶴見川では流域治水が四十一年前から鶴見川はどんな川?/いち早く「流域思考」で新しい治水方式に取り組む/総合治水・流域整備計画はどのように行われたのか/大規模緑地で生物多様性モデルを保全2 目に見える成果が出た大氾濫が止まっている/三〇〇㎜規模の豪雨でも大氾濫しない川に!/大型台風襲来も多目的遊水地が大活躍しラグビーの試合は開催/一五〇年に一度の豪雨を想定/流域思考は応用が利く3 総合治水を応援する市民や企業が登場TRネットの登場/環境分野での連携が鍵/総合治水対策から水マスタープランの流域へ4 流域開発への対応から温暖化未来への挑戦流域規模で都市構造から考え直さなければ5 総合治水の流域拠点探検隊河口〜源流〜そして再び河口へ6 流域治水はこれからどんな道を歩むのか鶴見川流域の実践はモデルとなるか/自然と共生する持続可能な都市づくりを支える流域思考第三章 持続可能な暮らしを実現するために1 生命圏再適応という課題地球環境は危機の真っただ中/私たちと地図の関係/流域地図を共有しよう2 さらに先の未来を考える流域は大地の細胞/流域思考で生命圏に適応してゆく3 鶴見川流域での三つの実践流域学習コミュニティを工夫し励ましてゆく/流域スタンプラリー/水マスタープラン応援の実践拠点あとがき