もっと速く、もっときれいに
脱植民地化とフランス文化の再編成
著:クリスティン・ロス
訳:中村 督
訳:平田 周
内容紹介
家と車が戦後のすべてを変えた
『サンフランシスコ・レヴュー・オブ・ブックス』批評家選賞&ローレンス・ワイリー賞、ダブル受賞
第二次世界大戦後、フランスは急速な資本主義化とアメリカ化による日常生活の根本的な変化を経験する。その変化の速度は無意識のうちに人びと感覚を変え、概念をも変えた。それは後に世界を席巻するフランス現代思想の誕生にもつながる。本書は、ゴダールやボーヴォワールなど豊富な映画、文学作品から急速に変化する社会を分析し、起伏に富んだ歴史を斬新な視角からダイナミックに描き出す。フランスのみならず多様な地域で経験された「戦後」の本質に迫る名著。
「戦後フランスの近代化の並外れた速度は、ブローデルが出来事の時間性として規定したものの性質を帯びているようであった。それは、一直線で、劇的で、息もつかせぬものだった。まさにこの速度によって、戦後のフランス社会は帝国意識の強いカトリックの農村国から、遍く産業化され、脱植民地化を遂げた都会的な国へと変わった。そのことは近代化が要求する物事――たとえば、教育を受けた中間管理職、購入可能な自動車やその他「成熟した」耐久消費財、科学的・機能主義的なモデルにしたがった一連の社会科学、あるいは旧植民地国出身者による労働力――が、真に新しいものの有する力、熱狂、混乱、恐怖を備えつつ、まだ戦前の価値観を手放せずにいた社会に突如現れたことを意味していた。」(本書より)
目次
第一章 ミス・アメリカ
自動車の歴史
ビヤンクールの世紀/「商品形態」としての自動車
動くイメージ
自動車と近代化/自動車に関する言説/映画のなかの自動車/自動車産業と映画産業/
物の知覚の変化/アメリカ化への順応と抵抗/モータリゼーションの拡大
自動車・カップル・カードル
新たな自動車の神話/サガンと自動車/小説のなかの広告的な言葉遣い/
ロシュフォールの小説におけるジェンダー/
ボーヴォワールの小説における新旧ブルジョワジー/
戦後の知識人カップルの交代あるいはその消滅
第二章 衛生と近代化
家事
清潔さへの欲望/リシャール夫人の道徳的漂白とロブ=グリエの文学的漂白/
女性誌の五つのカテゴリー/女性誌における家事特集/家庭器具展示会という教科書/
農村女性の解放と従属/近代化における性差の再編成
家の管理
歴史から離れて-プライベート化する社会/フランスの消費社会とアルジェリアの戦争/
新たな拷問と現代の産業組織
第三章 カップル
大いなる関係解消
フランスとアルジェリアの婚姻関係
フランス新中間層の形成
新中間層とカップル/新中間層の描き方/雑誌購読と国民共同体
新興ブルジョワジーの空間
近代的なものと非近代的なもの/近代化における排除の論理/
移民の排除と郊外化/再開発のなかの衛生と治安
第四章 新しい人間
新しい人間と人間の死
民族主義運動における「新しい人間」/構造的人間と「新しい人間」/
植民者と被植民者あるいは人間と動物
カードル
企業における「新しい人間」/革命的指導者と若いカードルの生活様式
不動の時間
ルフェーヴルによる構造主義およびテクノクラシーへの批判/
ロラン・バルトの不潔さからの退却/第二次世界大戦後における学問領域の再編/
社会科学と歴史学/「外部」の否認と「生きられた経験」
謝辞
訳者あとがき
フィルモグラフィー
主要参照文献一覧
人名索引