はじめてだらけの夏休み
大人になりたいぼくと、子どもでいたいお父さん
著:唯野 未歩子
紙版
内容紹介
「…ママは疲れがたまりすぎて、病気になってしまったようなのです。なにごとも頑張りすぎてはいけないと、お医者さんに言われました。死にたくなくなる薬を、ちゃんと飲まなければなりません。」「夏休みがはじまる日、ママは新潟のじいじとばあばの家に、行ってきます。あなたの顔を見ると、絶対にいけなくなっちゃうから、あなたが学校にいるあいだにママは行きます。ごめんね。ごめんなさい。」
突然、お母さんは消えた。ぼくはお母さんを守れなかった。というよりも、壊したのは、このぼくだ。疲れはじめていたお母さんと毎日一緒にいたぼくはうまくいかなくなった。
お父さんは仕事ばかりしていて、ほとんど家に帰らない。映画やテレビドラマの撮影現場へ行き、特殊なマイクで音を録る、録音技師という仕事をしている。
夏休みがはじまる日に、朝起きたら煙草と酒と脂のにおい――五カ月ぶりに会うお父さんが流しの下に落ちていた。ぼくはお父さんをいまひとつ好きになれない。最近は、会ったとたんにわけもなく嫌いになる。「ママはもう帰ってこないよ」と、お父さんは言った。
「この夏は、俺にとっても夏休みなんだ」ふいに、お父さんがつぶやいた。「家のことがちゃんとするまで、仕事はずっと休むつもりだから……」
初めてきちんとお互い向き合った。数々のくだらない遊び、お父さんの仕事に同行したり、
そして、忘れられない、ぼくとお父さんの、ふたりきりの夏休みが始まった。