出版社を探す

祈りは人の半分

著:水谷周
著:鎌田東二

紙版

内容紹介

願いを持たない人はいないし、従って祈らない人はいない。その祈りがまとまれば、信仰そのものである。それは難しいどころか人間の変わらぬ日々の営みであり、意識するかどうかは別として、誰しも自然とそれを実行し、その果実を得ているものなのである。だから祈りも宗教信仰も、人の半分なのである。ただし祈りや信仰は下手をすると形骸化するし、仏作って魂入れずということにもなる。人はそれをいつも正しく実践し、常にそれを蘇生し、深化に努めなければならない。
一方では時おりしも高齢化社会となり、老後の精神生活や終末の迎え方や看取りのあり方などといったかたちで、心の問題が取り上げられることが増えている。また自然の猛威に対する無力感から、祈る機会も増えている。いわば平時の祈りに加えて、有事の祈りが前面に出てきているといえる。こうして時代は物質文明とそれを推進してきた科学重視の合理主義から、それを脱却して心の時代とも称されるようになっている。ただしこれは、世界の潮流の一端でもある。
従来の祈りの文化を問い直し、その刷新と深化を図る必要が叫ばれているのは、いわば祈りの需要拡大に見合った供給拡大が進んでいない結果でもある。そこで多くの論者が議論し、多数の出版物が市場に溢れんばかりという現象が見られるのである。そしてその中に、本書が新たに参入するということになる。
本書ではまず信仰は人としての自然な営みであることを述べ、次に信仰心の蘇生のための諸側面を説明する。そして仏教、神道、キリスト教、イスラームを通じての祈りと巡礼における篤信振りを生の言葉と書籍より抽出した。またイスラームから見れば、日本はどのように映るのかについて論説し、最後に戦後社会という特殊な時代における格別な宗教信仰復興のあり方、特に宗教人の社会・政治参画の必要性を訴えている。そのような活動は宗教本来のものであり、それこそは真に具体的な祈りの深化となる。なお神道関係は鎌田東二が、それ以外は水谷周が執筆した。
以上を通じて、学理にとらわれず信仰の一層確かな把握とその堅持に焦点を絞った。その意味では多数の書籍の中でも、本書が一抹の固有の存在価値を発揮してくれればと願っている。宗教信仰はその抽象性と現世的表現を超越した実体を対象とする。だから分かったようで分かりにくいし、またすぐに崩れてしまうガラスの城である。砂の城かもしれない。しかしそれは人間が当然希求するものである、というところが味噌である。看過したり、失念したり、あるいは軽視できないのだ。まただからこそ永劫に大切にして、次世代に丁寧に受け継がれるべき宝であるとも言える。本書がそのような宝への扉を少しでも開く役目を果たすことができれば、著者の本望を果たしたこととなる。
(本書序文より)

目次

はじめに

第一章 宗教信仰とは

(一)日本の課題  (二)イスラームの場合  (三)仏教の場合 
(四)キリスト教の場合  (五)神道の場合  (六)自然科学の立場 
(七)信仰と学問  (八)信仰の落とし穴―聖と俗  (九)信仰の功徳 

第二章 信仰心蘇生のために

(一)宗教信仰と人生  (二)信心とストレス  (三)信仰心は壊れやすいガラスの城  
(四)信心は平等  (五)信仰は自らの務め  (六)信仰最良の果実は安寧 
(七)信仰は大船に乗った心地 (八)信心は互いに響くもの  (九)信仰は日々の勤め 
(十)信仰は新たな価値世界  (十一)信仰は絶対主にしがみつくこと 
(十二)信仰は心のバランス 

第三章 祈りと巡礼

(一)祈り  ア.妙好人と称名 イ.「主の祈り」と聖母マリアと神学者の祈り 
      ウ.ムスリムの祈り エ.神道の祈り
(二)巡礼  ア.ムスリムの巡礼 イ.キリスト教徒の巡礼 ウ.四国巡礼 エ.神道の神社参拝

第四章 宗教信仰を感得させる本

(一)イスラーム関係  ア.イブン・アルジャウズィー『随想の渉猟』 
             イ.アフマド・アミーン『溢れる随想』
(二)仏教関係  ア.澤木興道『禅に生きる』 イ.中根環堂『観音の霊験』 
          ウ.勝平大喜『歓喜のこころ』
(三)キリスト教関係  ア.トマス・ア・ケンピス『キリストにならいて』
              イ.遠藤周作『イエスの誕生』 ウ.ヨハン・ペスタロッチ『隠者の夕暮れ』
(四)神道関係  ア.『古事記』 イ.折口信夫『古代研究』 ウ.柳田國男『先祖の話』 
          エ.益田勝実『日本列島の思想』

第五章 イスラームが問いかける日本のあり方

(一)無宗教なのに、高い道徳意識  (二)自殺の日常化と生きがい 
(三)譲位する天皇と従順な国民 (四)「旅立つ前の、伴侶選び」 
(五)これからの日本  ア.イスラームは? イ.文明は?

第六章 宗教信仰復興の二つの課題

(一)宗教の低調さの主要原因 
(二)「戦後」の前半と後半  ア.前半の世相  イ.「戦後」の後半
(三)負の遺産と第一の課題  ア.宗教アレルギー  イ.人間復興と祈り
(四)負の遺産と第二の課題  ア.不徹底な社会改革  イ.社会改革への参画
(五)宗教と憲法改正 

おわりに

付録 教皇フランシスコの「祈り」の講話

著者略歴

著:水谷周
京都大学文学部卒、博士号取得(イスラーム思想史、ユタ大学)、(社)日本宗教信仰復興会議代表理事、日本ムスリム協会理事、現代イスラーム研究センター理事、日本アラビア語教育学会理事、国際宗教研究所顧問など。日本における宗教的覚醒とイスラームの深みと広さの啓発に努める。『イスラーム信仰叢書』全10巻、総編集・著作、国書刊行会、2010~12年、『イスラーム信仰概論』明石書店、2016年、『イスラームの善と悪』平凡社新書、2012年、『イスラーム信仰とその基礎概念』晃洋書房、2015年、『イスラームの精神生活』日本サウディアラビア協会、2013年、『イスラーム信仰とアッラー』知泉書館、2010年、『クルアーン―やさしい和訳』監訳著、訳補完杉本恭一郎、国書刊行会、2019年、『黄金期イスラームの徒然草』国書刊行会、2019年など。
著:鎌田東二
1951年徳島県生れ。國學院大學大学院文学研究科博士課程神道学専攻博士課程単位取得退学。岡山大学大学院医歯学総合研究科社会環境生命科学専攻博士課程単位取得退学。京都大学名誉教授、上智大学大学院実践宗教学研究科特任教授。同大学グリーフケア研究所所員。博士(文学、筑波大学)。
著書に、『神界のフィールドワーク―霊学と民俗学の生成』ちくま学芸文庫、『身体の宇宙誌』講談社学術文庫、『宮沢賢治「銀河鉄道の夜」精読』岩波現代文庫、『霊性の文学』『聖地感覚』角川ソフィア文庫、『日本人は死んだらどこへ行くのか』PHP新書、『現代神道論』『世直しの思想』春秋社、『世阿弥―身心変容技法の思想』『言霊の思想』青土社、『南方熊楠と宮沢賢治』平凡社新書、『ケアの時代 「負の感情」とのつき合い方』淡交社、編著『身心変容技法シリーズ』全3巻など。

ISBN:9784336072375
出版社:国書刊行会
判型:4-6
ページ数:368ページ
定価:2600円(本体)
発行年月日:2021年09月
発売日:2021年09月22日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:QR