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釈尊のご生涯をたずねて

「仏さま」の実像とその教え

編著:森 政弘

紙版

内容紹介

雑誌『躍進』(佼成出版社刊)で連載されていた「釈尊のご生涯を訪ねるロボット童子の旅」の書籍化企画です。悟りを求めて師を訪ね歩く『華厳経』の善財童子にあやかり、ロボット工学の権威である森政弘氏が、現代を代表する仏教学者や宗教学者(計14人)と対談を重ね、釈尊の生誕から入滅までの生涯を訪ねます。
本稿では、釈尊在世当時のインドの文化的背景を鑑みながら、出家、悟り、布教伝道、入滅に至るまでの釈尊の心情の変化なども考察。その内容は、仏教学の各分野に精通した学者との対話によって釈尊の生涯や人物像を克明に描くだけでなく、釈尊が発見された真理の核心を現代に生きる人間にあてはめて究察し、かつ仏教が現代に伝えられていることへの意味にまで言及する奥深いものです。多角的に釈尊の生涯を分析し、人間が生きることの意味をも明らかにした点で類書と差別化を図っています。
本稿の構成は、【童子敬白(釈尊の悟りへの道程を辿っていく上での森氏の心情)】→【釈尊伝のストーリー】→【森氏と学者の対話文】を繰り返しており、読み進めやすさを考慮した。ロボット工学の研究を通して人間についての理解も深めてこられた森氏が、仏教の研究を始められた当初の原稿であり、探究によって生じる疑問を次々と解き明かしていくプロセスもまた一興です。

目次

刊行に寄せて——森政弘

第1話 釈尊が誕生された釈迦国と当時のインド社会
〈童子敬白――旅を始めるに当たって〉
統一する王を待ちわびていた時代
世界の王となる者の三十二の相
鉄という物質が人の心を変える
新しい時代に対応するための価値観
古来の権威が失われていく中で
真実の生き方を求めて最高の悟りに
第2話 釈迦国の王子としての生活と青春時代の苦悩
〈童子敬白――〉
侍女にかしずかれる豪奢な生活
共和国の長老会議の議長を務める家柄
人類の苦悩をわが苦悩とする力
人間への慈しみから生まれた先取り
青春の中に老・病・死を凝視して
生の不思議を突き詰めて至った世界
第3話 約束された王位を捨てる出家の決意
〈童子敬白――〉
与えられた命の自覚からの決意
生命のかけがえのなさと悲惨さの凝視
世界を自分とするための出発
自分の役割を発見するための瞑想
世のため人のため、どう生きるか
真心の施物によって生きる者の使命
第4話 欲望に閉じ込められた人類を解放するための恐るべき苦行
〈童子敬白――〉
死の寸前まで己を追い込む苦行
燃え盛る火の上での禅定の境地を求めて
仮死からの甦りの中に現れた己
苦しみを試練と受け止める姿勢こそ苦行
人類に幸せをもたらすための行
人類の心に永遠に生き続ける生き方
第5話 悟りは、どのようにしてやってきたか
〈童子敬白――〉
命を賭した苦行を捨てる決意
自分自身の力で解決のカギを求めて
自らの内なる妨害者を退けて
肉体と感覚と精神が悪魔なのである
ついに真実の相そう)を顕あらわ)にした世界
すべての存在を成り立たせている原理
第6話 〝縁起の公式〟がどのようにして人間の救いの原理となったか
〈童子敬白――〉
縁滅するによって苦もまた滅す
世界をかくあらしめている条件の凝視
原因をあやまたずに見る難しさ
人間として生存していることこそが苦
区別のない自他を分けて見る苦
真理にのっとって欲望に逆らって立つ
第7話 この世のすべての人々のために法を説く決意
〈童子敬白――〉
世の流れに逆う法を説いても
空理の実体論とは次元の違う縁起観
神の懇請を受けて人々のために
最初の説法のために選ばれた人々
仏陀を〝君よ〟と呼んではならぬ
努力して積み上げたものを捨てる勇気
第8話 苦行をともにした五人の比丘たちへの初転法輪
〈童子敬白――〉
理想に達するために中道を歩め
二つの極端を超えた〝第三の立場〟
苦を滅するための四つの真理
理想からはずれた現実の凝視から
「ゴーンダンニャよ、よく悟った」
〝下がる〟修行に徹して縁起を体得する
第9話 ベナレスの豪商ヤサ一家の三帰依
〈童子敬白――〉
現代の若者にも似たヤサの苦悩
在家者に対しての〝初転法輪〟
ヤサの父が初めて唱えた僧帰依
拝み合う社会を築くための僧伽
ヤサ一家の帰依で僧伽の原形が
第10話 一切衆生の利益と安楽のための「伝道宣言」
〈童子敬白――〉
若者が中心の六十一人の僧伽
「この苦しむ人々の救いのために」
有形無形のすべてを救う真理
慈悲の心によって言葉が生きる
「一角サイの如く一人で歩め」
社会的試練に立ち向かっていく伝道
第11話 一挙に千二百五十人の僧伽を確立した釈尊のマガダ国への伝道の旅
〈童子敬白――〉
マガダの聖者・三迦葉の帰依
よく得るためよく捨てさせる対機説法
最高の権力者マガダ国王の帰依
より多くの人を救うための国王の教化
釈尊を師と選んだ三人の弟子
最もすぐれた知能と人格を集めた僧伽
第12話 平和を実現するための僧伽が守らねばならない戒と律
〈童子敬白――〉
平和の根源の平等を示す集まり
何のために生きるのかへの答え
法の親〝和尚〟を師と定めた修行
よき習慣を体するための戒と律
理想社会のモデルを示した僧伽
第13話 新興都市の在家の人々の間に広まっていった仏教
〈童子敬白――〉
都市を中心に広がる在家信者
あらゆる階層に求められる教え
どのように我執を取り去るか
教えを守る努力の中にある安楽
第14話 在家信者に対する人間完成のための釈尊の教え
〈童子敬白――〉
悟りの教えを大衆にどう説くか
民間信仰を肯定しながらも、真理に導く
「天に生まれて悟りを目ざせ」
その時代、その社会の人々を救うために
布施によって成り立つ経済生活
フロー思考で成り立っている世界
第15話 故郷・釈迦国訪問と父・スッドーダナ王の教化
〈童子敬白――〉
故郷と肉親へのやみがたい思い
決意を秘めてカピラ城をめざす
仏であることを知らせる神通力
父の前に如来として立った釈尊
第16話 カピラ城での王族の青年たちの教化
〈童子敬白――〉
遺産を欲する子を出家させた父
太子の位を継ぐ弟ナンダも出家の道へ
人の最善の道はこの道しかない
本物を見せるための釈尊〝奪う愛〟
真の人間を育てる厳愛の二法
理髪師ウパーリを兄弟子と仰がせて
第17話 祇園精舎を寄進したスダッタ長者の帰依
〈童子敬白――〉
新しい教えを求めていた長者たち
布教の新天地を都市に求められた釈尊
精舎を寄進したスダッタ長者
種族社会を理想化した僧伽の生活
理想社会のモデルを示す僧伽
自らコントロールすることの大切さ
第18話 当時の超大国・コーサラへの布教とパセーナディ王の帰依
〈童子敬白――〉
新宗教が咲き競うコーサラ国へ
妨害によって証明された釈尊の偉大さ
国王と王妃を帰依させた教え
自己を絶対化するものほどもろく崩れる
与える機の熟するのを待つ教化
個の救いを忘れたとき宗教は滅びる
第19話 マハーパジャーパティ妃の願いによって成立した比丘尼教団
〈童子敬白――〉
出家を願い出た釈尊の養母
女人の成仏を約束された釈尊
比丘の梵行の妨げとなる恐れ
女性の身の危険を案じられて
在家修行でも悟りに至れる
第20話 求道心に燃えて厳しい戒律の下で修行に励んだ比丘尼たち
〈童子敬白――〉
比丘尼教団のための「八重法」
女性の出家に対する高い垣根
女性を悟りに至らせる戒律
女性の修行を見守る釈尊の慈悲
老醜女を見せて悟らされる釈尊
第21話 僧伽の和合の教えのもととなったコーサンビーの比丘たちの争い
〈童子敬白――〉
南方の布教の拠点コーサンビー
持法者と持律者の立場の違いの争い
都市出身の比丘と農村出身比丘
教えに忠実であろうとする真剣さから
僧伽を和念させる巧みな説法
人間の社会の平和の原理〝僧伽羯磨〟
第22話 デーヴァダッタの反逆で明らかにされた仏教の中道思想
〈童子敬白――〉
釈尊と血縁のデーヴァダッタ
釈迦族の宗教にあくまでも固執して
時代に適応していく釈尊の宗教
出家者の生活についても釈尊と対立
適応性と独自性が調和した教え
自己を耕すことで身につく適応性
第23話 恨みの子・ヴィドーダバ王子によって滅ぼされた釈迦国の悲劇
〈童子敬白――〉
釈迦国から妃を望んだコーサラ国王
純血を誇りにしていた釈迦族の起源
偽りが育ててしまった恨みの子
慈悲心に包まれて引き返した大軍
釈迦国の悲惨な最期を見守る師
涅槃寂静から見た諸行無常の世界
第24話 アジャータサットゥ王に侵略を思いとどまらせた釈尊の平和の教え
〈童子敬白――〉
マガダ国に起こった骨肉の争い
罪のおののきから釈尊に帰依した王
アジャセ王の領土拡張の野望
栄える国と滅びる国についての教え
七不退法に示された平和の原理
六波羅蜜の実践の中にある平和
第25話 心の底から師を求めて己を開花させた釈尊の十大弟子
〈童子敬白――〉
晩年の釈尊の侍者となった阿難
釈尊の人格に魅せられた弟子たち
見事に自分を開花させた弟子達
当代随一の思想を超える教えの証明
師の人格を通して教えは伝わる
自らをたずねる心が師を求める心
第26話 釈尊の最後の旅立ちを前にしての舎利弗、目連の死
〈童子敬白――〉
弟子の双璧、舎利弗と目連の死
常に死に直面していることの自覚
仏教教団を代表する弟子たち
特定の後継者を定められなかった釈尊
自己の認識を教えている仏教
第27話 王舎城を後にして涅槃への最後の旅立ち
〈童子敬白――〉
人類の平和のための最後の遊行
故郷へ向かわれる利他行の旅
遊女アンバパーリーへの慈悲
最後の雨安居で病に伏された釈尊
法の中に生き続ける釈尊の慈悲
第28話 八十歳のご生涯に人類の平和の教えを説き続けられた偉大な師の涅槃
〈童子敬白――〉
最後の食事を供養したチュンダ
釈尊の最後の弟子となったスバッダ
大自然も供養した釈尊の般涅槃
原住民の安らぎの境地から育った涅槃
共同体を作るのに欠かせぬ中道
平和を育てる「解脱と涅槃の三原則」
第29話 国境を越え、時代を超えて、生きとし生ける者へ救いをもたらす釈尊の教え
〈童子敬白――〉
相手が納得できるように説く教え
形而上の空理空論より生きる道を
行じる中から生まれる深い反省
仏教に一貫して流れる慈悲の教え
人間の本然の教えとしての慈悲
人であって人を超えられた釈尊

著者略歴

編著:森 政弘
1927年(昭和2年)、三重県に生まれる。名古屋大学工学部電気学科卒業。工学博士。東京大学教授、東京工業大学教授を経て現在、東京工業大学名誉教授、日本ロボット学会名誉会長、中央学術研究所講師等を務める。ロボットコンテスト(ロボコン)の創始者であるとともに、「不気味の谷」現象の発見者であり、約50年にわたって仏教および禅の勉強を続け、仏教関連の著作も多い。紫綬褒章および勲三等旭日中綬章を受章、NHK放送文化賞、ロボット活用社会貢献賞ほかを受賞する。
 おもな著作に、『機械部品の幕の内弁当――ロボット博士の創造への扉』『作る! 動かす! 楽しむ! おもしろ工作実験』(ともにオーム社)、『今を生きていく力「六波羅蜜」』(教育評論社)、『親子のための仏教入門――我慢が楽しくなる技術』(幻冬舎新書)、『退歩を学べ――ロボット博士の仏教的省察』『仏教新論』『般若――仏教の智慧の核心』(ともに佼成出版社)等があり、共著書に『ロボット工学と仏教――AI時代の科学の限界と可能性』(佼成出版社)等がある。

ISBN:9784333029075
出版社:佼成出版社
判型:4-6
ページ数:576ページ
定価:2700円(本体)
発行年月日:2023年09月
発売日:2023年09月28日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:QRF