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生命はどのようにして死を獲得したか

老化と加齢のサイエンス

著:ウィリアム・R・クラーク
訳:小浪 悠紀子

紙版

内容紹介

ほとんどの生き物は、必ず死ぬ.老若男女を問わず、富の有無や、身分の貴賤に関わらず誰にでも平等に訪れるのが死である。しかし、輪廻転生と、死後の世界を意識しつつも、やはり、孫悟空のように、不老不死の術を望むものは少なくなかった。東洋では仙人伝説、青春の泉伝説などから、太古の昔から人が不老不死を追い求めてきたことがよくわかる。そして、この不老不死こそ人類始まって以来の夢なのであった。秦の始皇帝もその一人.強大な権力を持っていたからこそ、逃れられない死を恐れ、不老長寿の薬を蓬莱山に求めたがかなわず死ぬ。かぐや姫は、不老長寿の薬を残し、月の世界に戻っていったが、嘆き悲しむ帝はその薬を持って富士山にいき燃やしてしまったとか。浦島は、せっかく手に入れた不死の能力を人間の社会にことで捨て去り、白髪のおじいさんになり死んで鶴になったと言われる。不老不死が見られるのはこのような物語の世界だけである。一方、西洋の錬金術は、科学を発展させ、多くの医薬品の発見の端緒となり、人の命の延長にも大いに寄与したのである。
さて、現実の世界に戻って科学の目で老化と死を見てみると、近年の飛躍的な科学的知識の積み重ねから、老化や加齢との関係が推測される新しい事実がつぎつぎと見つかってきた。ビタミンCやE、緑茶のカテキンや、赤ワインのポリフェノールなど、最近話題になった老化防止効果があるといわれる食品は少なくない。我々人間にとってなくてはならない酸素由来の活性酸素の除去に関与していると考えられている。それでは、このような老化とはいったいどのようにして起こるのか。本書では、著名な細胞生物学者であるウィリアム・R・クラーク博士が、老化が個々の細胞レベルで始まり、それらの細胞が複製し、生物全体の老化と密接な関係を持つにいたる過程を、極めてわかりやすく説明してくれる。加齢の起源と進化、がんやアルツハイマー病との類似点、加齢の症状に良く似た早老症などの遺伝病の研究によって得られた最新の知識についても、簡潔、明快な解説で専門家以外の読者にも理解しやすい。また、カロリー摂取量の減少(いわゆるダイエット)と寿命の延長との関係や果物や野菜の中にある酸化防止剤の働きについても言及する。その上、老化に焦点を当てた遺伝子治療やクローニングの実験についての話題も織り込まれており、これ1冊で、生化学、免疫学はもちろん、分子遺伝学や腫瘍生化学にいたるまで、広範な知識を得ることができる。

目次

第1章 加齢と老化と寿命
集団から見た死―集団レベルでの老化と寿命

第2章 細胞の老化と死の本質
細胞老化の進化における起源
高等動物における分裂老化
真核細胞の分裂によらない老化

第3章 老化と死の進化
遺伝子、突然変異、そして進化
老化の非進化論
老化の進化論
老化と寿命の実験操作
結論

第4章 胚,線虫そして本当に年をとった人たちについて―老化と寿命の発生遺伝学
一寸の虫にも五分の魂があるので―C・エレガンスの老化と寿命の遺伝的制御

第5章 加齢のプロセスによく似ているヒトの遺伝病
ハッチンソン―ギルフォード早老症
ウェルナー症候群
コケイン症候群

第6章 老化にむかう細胞周期
細胞周期の調節
細胞周期と分裂老化
どのようにして細胞は時間を記録しているのだろうか?

第7章 複製不死化―がんと加齢
がんに関連する遺伝子
がんの進化上の原点

第8章 カロリー制限と最大寿命
生殖機能に及ぼすカロリー制限の影響
病気へのカロリー制限の影響
カロリー制限の免疫系への影響
高等な霊長類とヒトでのカロリー制限
それはいったい何なのだろうか?

第9章 ひと呼吸するたびに――酸化ストレスと細胞老化
酸素―非常に大切な物質であるが有毒物質でもある
加齢の酸化ストレス仮説
ヒトの老化や加齢に関連する病気で見られる酸化による損傷
ビタミンEと乳がん
抗酸化ビタミンと心臓血管疾患

第10章 脳の加齢
アルツハイマー病
アルツハイマー病の遺伝学
脳での酸化ストレスと加齢

第11章 条件付き利点
遺伝子、老化、そして死
ヒトの最大寿命
ヒトの平均寿命
ではいくらかかるのかな
将来待ち受けていることは何?

訳者あとがき
参考文献
索引

ISBN:9784320056008
出版社:共立出版
判型:4-6
ページ数:368ページ
定価:2800円(本体)
発行年月日:2003年10月
発売日:2003年10月15日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:MB