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有機化学入門

著:船山 信次

紙版

内容紹介

(まえがきより抜粋):
 有機化学は敬遠されがちな学問分野の一つである。著者は、それには大きく2つの原因があると思っている。そして、それがこの従来の有機化学の教科書とはまったく異なった観点と手法に基づく教科書を書こうと思ったいきさつでもある。
 有機化学が敬遠される原因の一つは、「亀の甲」の問題である。そう、有機化学は、別名いわゆる「亀の甲」といわれる化学構造式(有機化学の言語ともいうべきもの)が理解できなければほとんど理解できない。そして、この「亀の甲」がゆえに敬遠されがちな学問となっている。しかし、「亀の甲」は慣れ親しんでしまえば、けっしてやっかいなものではない。むしろ、「亀の甲」の存在ゆえによく理解できるのである。私の「有機化学」の講義経験でも、その使用にアレルギーを起こさないように「亀の甲」をうまく導入すれば、学生はけっこう「有機化学」に興味をもち、また理解してくれることがわかっている。(中略)
 有機化学が敬遠されがちなもう一つの大きな原因は、この学問が現実生活と乖離したものであるという誤解にあると考える。そこで、この教科書においては、この点に着目し、私たちに身近なもの、あるいはマスコミその他で名前を見聞きしたことのある有機化合物を積極的に取り上げることに腐心した。むしろ、この本に取り上げたのは、私たちに馴染みのある有機化合物(とその関連化合物)に限ったといってよい。この点で、この教科書はかなり特徴的である。(中略)
 くり返しになるが、この本は、まず有機化学に興味をもっていただき、そして通読していただければ、ある有機化合物の化学構造を見ることにより、その化合物がどのような起源をもち、どのような基本的性格を有するものであるかを認識できる程度の実力がつくことを目標としている。そこで、登場した化合物の化学構造についてはもらさず提供するように努めた。一方、この本では、各種の有機化合物の化学反応性や合成法などについての記述は、一部を除いてほとんどを割愛した。そのため、この教科書を通読した結果、もの足りなさを感じる読者も必ずや出てくることだろう。しかし、それこそ、この入門書とその著者である私の意図するところである。もし、いろいろな身近な有機化合物のさまざまな側面についての記述に接するうちに、その有機化合物の化学合成や反応、化学的性質、その起源や生合成などについて、もの足りない部分やもっと知りたい部分を感じるようになったら、その部分こそ、あなたのより詳しく知りたい分野なのである。その場合には、その方面についてより詳しく記述してある他の成書に進むことをお勧めする。この教科書は、そのような読者の踏み台となることを喜びとし、そう感じる読者がたくさん出れば、この入門書の意図は達成されたと歓喜したい。

目次

第1章 有機化学と私たちの生活
1.0 はじめに
1.1 衣食住と有機化合物―衣食住と有機化学の関係
  1.1.1 衣と有機化学
  1.1.2 食と有機化学
  1.1.3 住と有機化学
1.2 毒と薬と有機化合物―毒や薬の正体の多くは有機化合物
  1.2.1 毒と薬と有機化合物
  1.2.2 有毒植物,微生物と有機化学
  1.2.3 有毒動物と有機化学
  1.2.4 医薬品の分類
  1.2.5 生薬と抗生物質や合成化学薬品の利用のされ方の違い
  1.2.6 毒や薬としてのアルカロイドの重要性
1.3 近代有機化学の歴史―それは尿素の合成に始まった
  1.3.1 近代有機化学以前の話
  1.3.2 近代有機化学の勃興
  1.3.3 日本への生薬と本草学の導入
  1.3.4 江戸期の日本の化学―宇田川榕庵と舎密開宗
  1.3.5 明治期以降の日本の化学―日本における近代有機化学の黎明期から現代まで
コラム 有機化学と人類の繁栄

第2章 有機化学の基礎
2.0 はじめに
2.1 有機化合物を構成する元素―C,H,O,N,S,Pでほとんど全部
2.2 原子の構造―共有結合について
  2.2.1 水素原子の姿
  2.2.2 おもな原子の電子配置
  2.2.3 化学結合の起こるわけ
2.3 炭素1~2個からなる有機化合物とその関連化合物―二日酔いも科学してしまおう36
  2.3.1 炭素1個からなる有機化合物
  2.3.2 炭素2個からなる有機化合物とその関連化合物
  2.3.3 炭素2個からなるその他の有機化合物の例
  2.3.4 各種の基といくつかの基本構造について
2.4 ベンゼン環1~2個を含む有機化合物とその関連化合物―アスピリンからダイオキシンまで
  2.4.1 ベンゼン環に置換基1個が結合した化合物
  2.4.2 ベンゼン環に置換基2個が結合した化合物
  2.4.3 ベンゼン環に置換基3個が結合した化合物
  2.4.4 ベンゼン環に置換基4個が結合した化合物
  2.4.5 ベンゼン環2個が互いに結合した化合物
  2.4.6 ベンゼン環にやや複雑な置換基1個が結合した化合物
2.5 異性体と立体化学―有機化学の世界は3次元
  2.5.1 幾何異性体
  2.5.2 メタンの立体構造
  2.5.3 不斉炭素とR,S表示法
  2.5.4 立体(光学)異性体の発見
  2.5.5 グリセルアルデヒドとD,L体
2.6 有機化合物の表示法と命名法―亀の甲と親しくなる
  2.6.1 有機化合物の表示法
  2.6.2 有機化合物の命名法
2.7 有機化合物の分類法―よく知られた有機化合物はどのようなグループに属するか
  2.7.1 身近な有機化合物の分類法
  2.7.2 ケミカルアブストラクツについて
コラム アボガドロ数について

第3章 分子中に窒素を含まない有機化合物
3.0 はじめに
3.1 脂肪酸とポリケチド類―食用油やセッケンの正体を知る
  3.1.1 飽和脂肪酸
  3.1.2 不飽和脂肪酸
  3.1.3 アラキドン酸とプロスタグランジン
  3.1.4 2-ノネナール
  3.1.5 EPAとDHA
  3.1.6 グリセリドとセッケン
  3.1.7 グリセリンとニトログリセリン
  3.1.8 合成洗剤
  3.1.9 ドクゼリとチクトキシン
  3.1.10 ジャコウとムスコン
3.2 糖質―まずはグルコースを理解する
  3.2.1 単糖類
  3.2.2 配糖体
  3.2.3 アミノ糖
  3.2.4 五炭糖
  3.2.5 単糖類類縁物質
  3.2.6 オリゴ糖類
3.3 フェニルプロパノイド―ニッキ飴や桜餅の香りの正体は
  3.3.1 フェニルプロパノイドの生合成
  3.3.2 その他のフェニルプロパノイドの例
  3.3.3 リグニン
3.4 フラボノイド―花の色や女性ホルモンとの関係
  3.4.1 フラボノイドの生合成
  3.4.2 フラボノイドの分類
  3.4.3 フラボン,フラボノールの例
  3.4.4 フラバノノール,カテキンの例
  3.4.5 カルコン,オーロンの例
  3.4.6 アントシアンの例
  3.4.7 イソフラボンの例
3.5 テルペノイド―レモンの香り,トリカブト毒,そしてステビア甘味成分も
  3.5.1 モノテルペノイド
  3.5.2 セスキテルペノイド
  3.5.3 ジテルペノイド
  3.5.4 セスタテルペノイド
  3.5.5 トリテルペノイドとステロイド
  3.5.6 カロテノイド
3.6 その他
コラム 天然染料と有機化学

第4章 分子中に窒素を含む有機化合物
4.0 はじめに
4.1 アミノ酸とペプチド―カニの甘味,昆布のうま味の正体
4.2 アルカロイド―イノシン酸からLSDまで
  4.2.1 フェニルアラニンおよびチロシン由来のアルカロイド
  4.2.2 トリプトファン由来のアルカロイド
  4.2.3 オルニチンおよびアルギニン由来のアルカロイド
  4.2.4 リジン由来のアルカロイド
  4.2.5 グルタミン酸由来のアルカロイド
  4.2.6 ヒスチジン由来のアルカロイド
  4.2.7 プリンおよびピリミジン骨格を有するアルカロイド
  4.2.8 テルペノイド骨格を有するアルカロイド
  4.2.9 ポリケチド由来のアルカロイド
  4.2.10 C6-C1由来の化合物
4.3 その他
コラム 向精神薬と私たち

第5章 有機高分子化合物
5.0 はじめに
5.1 漆―重合により生成する堅牢な塗装
5.2 多糖類―単糖類の重合により生成する高分子
5.3 弾性ゴム―基本骨格はテルペノイドと同じ
5.4 タンパク質―アミノ酸の重合により生成する高分子
5.5 核酸とRNA/遺伝子の正体
5.6 プラスチックと合成繊維―四大汎用樹脂とPET,テフロン,そしてナイロンなど
  5.6.1 四大汎用樹脂(ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリ塩化ビニル)と,ポリ塩化ビニリデンおよびテフロン樹脂
  5.6.2 PET(ポリエチレンテレフタラート)樹脂
  5.6.3 セルロイド
  5.6.4 メタクリル樹脂とABS樹脂
  5.6.5 ナイロン
  5.6.6 フェノール樹脂,ユリア樹脂,メラミン樹脂
  5.6.7 ポリアセチレン樹脂
コラム 化学合成有機高分子化合物と人類

参考文献

ISBN:9784320043732
出版社:共立出版
判型:A5
ページ数:192ページ
定価:2200円(本体)
発行年月日:2004年11月
発売日:2004年11月10日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:PNN