万葉歌に映る古代和歌史
大伴家持・表現と編纂の交点
著:新沢 典子
内容紹介
万葉集をどのようにして古代和歌史の中に定位させるか
これまで、限定的な資料から古代和歌史を考えることの限界が叫ばれ、歌人論・成立論・表記史などの、長らく万葉集を読む拠り所とされてきた枠組みの多くが否定された。
本書では、限界突破を目指し、編纂者家持が先行歌人の歌をどう取り込んでいるかという視点を設定。歌内部の要素である表現に即して、語や文法の通時的変化を追う日本語学的アプローチを用いながら、飛鳥時代から平安時代に至る語法や表現形式の変化を明らかにする。表現の変遷を具体的に追い、歌が文芸として成立する過程を描いた新しい方法論!
目次
凡例
はじめに
万葉集は読めるか
なぜ「大伴家持」か
歌を「読む」方法について
八世紀の万葉集に近づくために
仮名万葉の価値
第一部 呼びかけ表現をめぐって
第一章 古代和歌における呼びかけ表現
希望表現「な」「ね」「なむ」
歌謡・東歌・旋頭歌と「ね」
短歌における「ね」の位置
希求対象の表示形式
「な」の呼びかけ性
「な」「ね」消滅の理由
第二章 呼びかけの「ね」の形式化と歌の場
「ね」の表現形式化
「ね」の形式化と旋頭歌体
「ね」の出現傾向
万葉集における命令表現の形式化
古今集における命令表現の形式化
呼びかけの「ね」消滅と古代和歌史
第三章 呼びかけの「ね」と大伴家持
呼びかけの希求表現
家持以前の呼びかけ
希求表現「〜ね」を含む家持作歌
家持作歌における呼びかけの対象
憶良作歌における呼びかけの対象
家持作歌における呼びかけの表現性
「ね」の偏在の表す意味
第四章 「な」の変遷と歌の場
呼びかけの願望表現
願望か、勧誘か
「勧誘的用法」の本質
「な」の消滅と歌の場
「な」に映る古代和歌史
第五章 「な」から「こそ〜め」へ
願望の「な」と活用助辞「(こそ〜)め」
一人称主体の動詞に接する「め」
一人称主体以外の動詞に接する「め」
呼びかけ表現の変遷
第二部 表現形式と歌作の方法
第一章 越中における「思ふどち」の世界
呼びかけと連帯意識
「どち」の変遷
「〜と一緒に」から「仲間」へ
風流人集団としての「思ふどち」
越中外官の心情世界
思ふどちの別れ
第二章 「吉野讃歌」と聖武天皇詔
「吉野讃歌」の作歌動機
「吉野讃歌」の内容と構成
「吉野讃歌」の表現
五節舞の儀と詔の意義
「吉野讃歌」の主題
第三章 「ものはてにを」を欠く歌の和歌史における位置づけ
歌学の萌芽と歌作
「辞」を欠くということ
「ものはてにを」の位置
第三句の名詞と「ものはてにを」
家持作短歌第三句の傾向
「秀歌」詠の手法
第四章 「挽歌一首」の表現と主題
なびく「玉藻」
万葉歌における「うちなびく」
横臥を表す「うちなびく」
「うちなびき眠も寝らめやも」
「うちなびく」・「こゆ」・「ふす」
万葉歌における「なびく」
日本挽歌との関わり
明日香皇女挽歌との関わり
第三部 家持による編纂の痕跡
第一章 柿本人麻呂作歌の異伝注記と家持
人麻呂作歌と家持
人麻呂作歌の異伝
人麻呂作歌以外の異伝と他の歌の表現
人麻呂作歌の異伝と他の歌の表現
人麻呂作歌の異伝と家持作歌の表現
人麻呂作歌の注記者
家持と万葉集の編纂
第二章 巻一の編纂と家持
七八番歌は天皇御製であったか
「作歌」と記す題詞
旧都愛惜という主題
仮名の多さ
後続歌との関わり
注記者と家持
第三章 巻六の配列と家持
聖武行幸歌群中の「齟齬」
短歌体の久迩京讃歌
軽太子・ヤマトタケル・有間皇子
聖武朝の「人麻呂」
第四章 幻の宮廷歌人「田辺福麻呂」
田辺福麻呂歌集歌の性格
作歌と歌集歌
巻六巻末という位置
第四部 平安期の万葉集
第一章 赤人集と次点における万葉集巻十異伝の本文化
万葉集巻十と赤人集
赤人集に残る古い万葉集の痕跡
赤人集のもととなった万葉集巻十
万葉集の異伝と次点本の訓
巻十八単独伝来の可能性
第二章 古今和歌六帖と万葉集の異伝
平安期の万葉歌
古写本における異伝の扱い
古今六帖収載の万葉歌
異伝系本文の本行化
巻十二の異伝系本文と古今六帖
巻十二の異伝系本文と伊勢物語
本文校勘資料としての価値
おわりに
初出一覧
あとがき
索引