大伴家持と中国文学
著:鈴木 道代
内容紹介
家持の歌世界にみる〈歌学〉の萌芽
中国の六朝詩学を導入し歌を創造した家持。歌を日本の「詩」と捉え、漢詩と同質にみる態度は、歌論に表される歌の本質論に繋がる問題であり、家持の〈歌学〉の源流がある。
本書では、特に越中時代以降の作品を取りあげ、『文選』『玉台新詠』六朝詩と比較検討し、『文心雕龍』などの文学理論と照合。どのように中国文学を享受し、日本の歌へと展開させたのか。家持が構築した新たな文芸の核〈歌学〉を明らかにする。
【家持の〈歌学〉は断片的なものであるが故に、歌から理論を探る工程が必要となるのであり、体系的に表れるのは、『歌経標式』や『古今和歌集』を待たねばならない。しかしこれらの歌論が中国詩学を取り入れることによって和歌の本質に迫ろうとしたことを鑑みるならば、家持の時代にすでにその素地があったということである。このことは家持における〈歌学〉が、個人に帰するものではなく、古代日本の歌が辿る必然性の中にあるということを物語っていよう。...本書「結論」】
目次
凡例
序章
第一節 本書の目的
第二節 大伴家持と中国文学の関わりについての研究状況
第三節 本書の概要
第一部 家持と池主との交流歌―家持歌学の出発―
第一章 家持と池主の文章論─「山柿の門」と「山柿の歌泉」をめぐって─
第一節 はじめに
第二節 池主による家持の作品理解
第三節 「情理」と六朝詩学
第四節 漢詩と倭詩の「情」と「理」
第五節 おわりに
第二章 家持の遊覧と賦の文学
第一節 はじめに
第二節 遊覧と賦の詩学
第三節 遊覧の賦と風景描写
第四節 家持の遊覧の賦の成立
第五章 おわりに
第三章 家持と池主の離別歌―交友の歌学をめぐって―
第一節 はじめに
第二節 家持と池主の贈答歌と恋歌
第三節 家持と池主の贈答歌と中国恋愛詩賦
第四節 家持と池主の贈答歌と中国贈答詩
第五節 おわりに
第二部 家持の花鳥風詠と歌学
第一章 「庭中花作歌」における季節の花─なでしこと百合の花をめぐって─
第一節 はじめに
第二節 なでしこと百合の咲く庭
第三節 家持の庭園の歌学
第四節 鄙の花の風景
第五節 おわりに
第二章 家持の花鳥歌─霍公鳥と時の花をめぐって─
第一節 はじめに
第二節 賞美の場における花鳥
第三節 立夏の霍公鳥
第四節 「時の花」と「藤の花」
第五節 おわりに
第三章 春苑桃李の花―幻想の中の風景―
第一節 はじめに
第二節 春苑の歌学
第三節 桃李花歌の成立
第四節 おわりに
第四章 家持の七夕歌八首
第一節 はじめに
第二節 歌群の構成
第三節 家持の七夕歌と巻十の七夕歌との比較
第四節 「独詠」と「独詠述懐」
第五節 おわりに
第三部 家持の君臣像―詩学から政治へ―
第一章 侍宴応詔歌における天皇像
第一節 はじめに
第二節 応詔歌の歌の場
第三節 「秋の花」と理想の御代
第四節 おわりに
第二章 応詔儲作歌における君臣像の特色とその意義
第一節 はじめに
第二節 当該歌の方法と位置付け
第三節 豊の宴と臣下像
第四節 「島山に明る橘」と新嘗会
第五節 おわりに
第三章 家持歌における皇神祖の御代―「青き蓋」をめぐって─
第一節 はじめに
第二節 「青き蓋」と天皇統治
第三節 皇神祖と保宝葉
第四節 布勢の遊覧歌群と王権讃美
第五節 おわりに
第四章 吉野行幸儲作歌における神の命と天皇観
第一節 はじめに
第二節 人麻呂と家持の天皇観
第三節 「皇祖の神の命」と「大君」
第四節 おわりに
結論
初出論文一覧
あとがき
索引(万葉集歌番号・事項)