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冒険 淫風 怪異

東アジア古典小説の世界

著:染谷 智幸

紙版

内容紹介

東アジアの人々の交流に、古典小説はどのような役割を果たしたのか。
二十一世紀、再びアジアの時代が到来した。欧米の近現代を最終地点に描かれてきた文化・文明史を、本書では、アジアに軸足をシフトして考える。大交流時代の十六、七世紀、日本・朝鮮・中国・ベトナム…、各国の文学は繋がっていた。それは、この時代に吹いた新しい風、〈冒険〉〈淫風〉〈怪異〉というテーマで、である。東アジア古典小説史は果たして可能なのか。 十六・七世紀のアジアの文学を総体として捉え直す書。

【二十一世紀は「再びのアジア」の時代である。従来、世界のあらゆる文化文明史が、欧米の近現代を最終到達地点として書かれてきたが、この地点の軸足がこれから大きくアジアへとシフトする。よってアジアの小説史はこの視点のシフトによって大きく変わらざるを得ないはずである。この事態を見据えた上での、アジア小説の歴史叙述と未来への展望が、今こそ必要である。……本書・跋、要旨より】

目次

序 東アジア古典小説史は可能か― 十六・七世紀のアジアへ向けて

第1部 東アジアとは何か

1 東アジアとは何か―光圀の媽祖、斉昭の弟橘媛
1 海洋国家日本と3・11/2 弟橘媛と媽祖―交替した祭神/3 水戸学の展開―光圀・斉昭の対外意識の差/4 外に向かう光圀の意識―快風丸建造と北海道開拓/5 斉昭の遊廓建設計画/6 十七世紀日本の国際感覚と三教一致/7 光圀の眼と東アジア/8 アンコールワットを参拝した日本人―当時の地理的感覚/9 分裂していく光圀の思い―立原翠軒と『大日本史』/10 〈東アジア〉をどう捉えるか―自由=林立の東アジア

第2部 冒険

1 英雄は東アジアの海へ―『水滸伝』の宋江から『椿説弓張月』の為朝まで
1 ヨーロッパにおける小説の発生と冒険―神の退場と新世界の登場/2 東アジアにおける小説の発生と冒険―海を中心とした大交流時代へ/3 海を舞台にしない『水滸伝』から海に解き放たれた『水滸後伝』/4 海洋の孤島にユートピアを造り上げる『洪吉童伝』/5 日本版『水滸後伝』、『椿説弓張月』と琉球/6 外海を志向する『好色一代男』と女護島・長崎―「あつちの月思ひやりつる」/7 なぜ主人公たちは東アジアの海へ向かうのか

2 大交流時代の終焉と倭寇の成長―近世漁業の成立と西鶴の『日本永代蔵』
1 日本経済の起源説話『日本永代蔵』/2 「天狗は家な風車」の源内像を探る/3 生類憐み政策、触の混乱ぶり/4 貞享四年「魚鳥いけ置」禁令―生きて働く鯛を殺さず/5 天狗源内の成長 

第3部 淫風

1 妓女・妓生・遊女― 東アジアの遊女と遊廓を比較する
1 座談会「西鶴と東アジアの遊女・遊廓」/2 朝鮮の妓生―官僚社会の矛盾・ほころびを埋める存在/3 遊廓と世俗の論理―どのように世俗と隔絶する世界を築いたか/4 遊女の本意―自前で拠るべき思想・思考を立てる/5 中国の妓女と妓生・遊女の行動範囲/6 「浮世の事を外にな」す世界/7 遊廓の中の中世的志向

2 日本の遊女・遊廓と「自由円満」なる世界―井原西鶴『好色一代男』を中心に
1 『昭和遊女考』をめぐって―偏見の垢を落とす/2 「自由円満なる傾城」/3 『一代男』の「自由円満」/4 『一代男』の前半と後半―「自由円満」なる世界を築き上げる物語/5 遊女・遊廓と金銭―信頼と禁忌という矛盾

3 五感の開放区としての遊廓―遊廓の「遊び」と「文化」を求めて
1 遊廓と「遊び」「文化」/2 遊廓と多様な芸道・芸能世界/3 遊廓と花/4 香と茶/5 その他の芸能/6 調度と五感の慰撫/7 共通感覚から遊廓を捉え直す/8 遊廓と六根清浄―五感の開放と躍動の意図

第4部 怪異

1 引き裂かれた護符―『剪灯新話』の東アジアへの伝搬から読み解けること
1 駒下駄の恐怖/2 『剪灯新話』の世界/3 「吉備津の釜」の幽鬼世界/4 楊少游、護符を破る/5 怪力乱神を語らず/6 ムーダン(巫堂)の世界と儒学の対立/7 西鶴も成しえない護符破り/8 怪異小説・モノ・下駄・灯籠/9 百鬼夜行絵巻・付喪神・玩物喪志/10 東アジアの近代化と日中朝の奇談・怪談の在り方  

2 天下要衝のユートピア―『金鰲新話』の世界
1 「東アジア」という視座の難しさ/2 『金鰲新話』のあらすじ/3 『金鰲新話』とは何か/4 天下の要衝としての朝鮮/5 絶代の哲婦としての朝鮮/6 朴生と韓生のユートピア/7 天下要衝のユートピア

第5部 朝鮮古典小説の世界

1 熱狂のリアリズム―朝鮮古典小説の世界、その背後にあるもの
1 日本と朝鮮、隔絶する文化世界/2 「知」をめぐる日韓の相違/3 朝鮮古典小説、その「知」の強烈な発散/4 「礼節」、ロマネスクとパッション/5 「知」と「礼節」の背後にあるもの―静謐な世界を下支えする熱いマグマ/6 上位者への反骨精神/7 ユートピアとしての幻想空間/8 両班の妻女たちとユートピア/9 理想と現実の大いなる矛盾

2 『九雲記』に表れた日本軍と東アジア世界―『九雲夢』との関係を踏まえながら
1 『九雲記』と〈東アジア〉/2 『九雲記』の問題/4 『九雲夢』と『九雲記』/4 『九雲記』と日本軍/5 日本軍侵攻への改編意図/6 恋愛物語から軍記物語へ/7 日朝古典小説史の平行性 
   
跋 古典小説と近現代小説の架橋 ― 再びのアジアへ向けて

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初出一覧
アブストラクト英語・韓国語
索引[人名、書名・作品名、事項]

著者略歴

著:染谷 智幸
1957年東京に生まれる。上智大学文学部卒業。上智大学大学院博士前期課程修了。茨城キリスト教大学文学部教授。
著書に『西鶴小説論―対照的構造と「東アジア」への視界』(翰林書房、2005)。
編著・共著に、青柳まちこ編『文化交流学を拓く』(世界思想社、2003)、大輪靖宏編『江戸文学の冒険』(翰林書房、2007)、染谷智幸・鄭炳説編『韓国の古典小説』(ぺりかん社、2008)、諏訪春雄・広嶋進・染谷智幸編『西鶴と浮世草子研究 第四号 特集[性愛]』 (笠間書院、2010)などがある。

ISBN:9784305705914
出版社:笠間書院
判型:A5
ページ数:340ページ
定価:2800円(本体)
発行年月日:2012年06月
発売日:2012年06月14日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:DSA