学術叢書
芥川龍之介中国題材作品と病
著:孔月
内容紹介
芥川文学における新たな〈読み〉の可能性を切り開く!
芥川文学における〈病〉の問題は、芥川自身の経歴、あるいは近代的自我の問題や世紀末思潮という時代の文化的事象として帰結されてきた。しかし、中国を題材にした作品においてそれは、グローバルな視点から別の解釈をすることができる。
本書は、〈病〉の隠喩性を視野に入れながら、芥川の中国題材小説における〈病〉のありようを、作品の成立時の日中関係という大きな政治的・社会的コンテクストと結びつけ解明し、時代の中に生きる作者芥川を解読する。
目次
序論
1 他者、女性、帝国と病の関わり
2 病の位相
第Ⅰ章 「治療」と「病」の寓意――「酒虫」論
1 はじめに
2 芥川の「酒虫」と典拠の「酒蟲」
3 〈病〉の寓意――大正五年前後のメディア言説を通して
4 〈治療〉の寓意――物語の〈内部〉と〈外部〉の照応を通して
5 〈蛮僧〉と学校教育
6 三つの答えのトリック性
7 おわりに
第Ⅱ章 〈病〉と植民地の出会い ――「南京の基督」論
1 はじめに
2 背景としての一九二〇年代の中国
3 金花の「奇蹟」物語――根底にあるもの
4 金花の見た夢――「支那化」された「基督」
5 「混血児」の発狂、その表象をめぐって
6 おわりに
第Ⅲ章 隠喩としての〈狂気〉――「奇怪な再会」論
1 はじめに
2 怪奇現象をめぐる言説――「婆さん」の語りを通して
3 隠喩としての〈狂気〉――明治二○年代と大正期における〈病〉言説
4 お蓮の自己分裂と「支那服の女」という表象
5 おわりに
第Ⅳ章 偶像の時代・精神の自由――「将軍」における〈中間的〉まなざしの意味
1 はじめに
2 帝国の権化としてのN将軍――三人の兵卒を通して
3 露探斬首の逸話――田口一等卒と穂積中佐の視点から
4 外国人武官と穂積中佐の視点を導入する意図
5 大正期青年の抱いたN将軍像
6 おわりに
第Ⅴ章 「馬の脚」における帝国日本の表象――その寓意・諷刺をめぐって
1 はじめに
2 表象その(1)――北京の三菱・本願寺布教師、そして〈馬の脚〉
3 表象その(2)――同仁病院・順天時報
4 主人公半三郎の分裂
5「馬の脚」のテクストと〈外部〉コンテクスト
6 おわりに
第Ⅵ章 「僕」の〈支那趣味〉装置――「湖南の扇」論
1 はじめに
2 プロローグについて
3 人血ビスケット事件に向けられるまなざし(1)――「僕」のまなざしを通して
4 人血ビスケット事件に向けられるまなざし(2)――譚のまなざしを通して
5 長沙の〈支那人〉たち――表象と意図
6 おわりに
結 章
あとがき
参考文献
図表出典一覧