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研究双書 No.635

中国の都市化と制度改革

編:岡本 信広

紙版

内容紹介

2012年に習近平政権がスタートし、2013年の全人代で総理に就任した李克強は「新型都市化」を強調した。2014年、政府は「国家新型都市化計画(2014-2020)」を発表し、中国は都市化を積極的に推進しつつある。都市化とは、国土空間における一部地域への人口集中である。改革開放以降、中国では農民工が沿海地域の諸都市に移動し、都市人口は急速に増加してきた。たとえば、上海では常住人口ベースで1609万人(2000年)から2415万人(2015年)に増加した。現在、戸籍所在地と住んでいる場所がちがう人口は2億9400万人、流動人口は2億4700万人いる。このように中国では戸籍地を離れて、現実的に人が都市に流入している。
新型都市化計画の主要な目標は、計画策定時の常住人口都市化率52.6%を2020年までに60%程度まで引き上げること、そして戸籍人口都市化率35.3%を45%程度までに引き上げることである。もちろん数値目標だけでなく、急速に膨れ上がってきている都市人口に対し、都市インフラや公共サービスを整備し、地域的なバランスのとれた都市群を生み出し、都市管理システムを向上させること、などを謳っている。
中国の都市化は、政府が空間的な一部地域、とくに中小都市への人口集中を人為的に進めていることに特徴がある。人為的に進める理由は、中国の制度がこれまで空間的な一部地域への集中を妨げていたためだ。したがって都市化を進めるということはこれまでの都市化を妨げていた制度を改革するということを意味する。具体的には戸籍制度の改革等である。都市化は経済発展の裏返しでもある。都市で雇用が生まれ、農村の農業が安定してくると余剰労働力はより高い賃金を支払える都市の第 2 次産業へ移動していく。都市で第 2 次産業、第 3 次産業が発展すれば、より多くの職が生まれるとともに、より多くの人々をひきつけてさらなる都市化が進む。都市化の推進にあたっては、政府の都市化抑制政策からの自由化が必要であると同時に、都市管理という新たな政府関与を必要としている。市場経済化で進展した都市化の結果、多くの流動人口を生み、計画経済時代の遺物である戸籍制度等は順調な都市化の妨げとなっている。また一方で人口流入が進む都市では渋滞や環境汚染など都市計画、都市管理の必要性も生まれている。都市化の推進には「政府の退出と介入」という絶妙なバランスが必要となる。
本書は、都市化で発生している社会構造変化を空間的都市化と制度的都市化に分け、とくに制度的側面に焦点をあてて、「政府の退出と介入のバランス」から都市化の推進と制度改革の展望を示すことを目的とする。

目次

まえがき

総 論 中国の都市化-政府の退出と介入のバランス- 岡本 信広
 はじめに
 第1節 都市化の研究とは-本研究の位置づけ-
 第2節 中国の都市化の特徴と構造的問題
 第3節 新型都市化計画と制度改革
 第4節 本書の構成
 おわりに

第1章 地域開発と都市化-地方主体の地域発展戦略を中心に- 穆 尭芊
 はじめに
 第1節 中国の地域開発政策の時代区分
 第2節 地方主体の地域発展戦略の展開
 第3節 地方主体の地域発展戦略の実態
 第4節 地域開発政策の展開と都市化
 おわりに

第2章 沿海部の都市化-珠江デルタの都市化モデル- 賈 海涛
 はじめに
 第1節 珠江デルタ都市群の勃興
 第2節 珠江デルタ都市化モデルの特徴と課題
 第3節 新型都市化と珠江デルタ都市化モデルの展望
 おわりに

第3章 内陸部の都市化-貴州省を事例に- 岡本 信広
 はじめに
 第1節 貴州省概況
 第2節 貴州省の都市化の事例
 第3節 評価
 おわりに

第4章 工業都市のリスク・ガバナンス-天津市濱海新区の事故から- 大塚 健司
 はじめに
 第1節 中国における産業事故リスク
 第2節 天津市濱海新区の都市開発
 第3節 天津港 8 ・12爆発事故の経緯
 第4節 天津港 8 ・12爆発事故の背景要因
 第5節 安全生産管理と都市建設の行方
 おわりに

第5章 都市・農村発展の一体化に向けた農村改革の到達点と課題 山田 七絵
 はじめに
 第1節 中国の新型都市化における農村改革の位置づけ
 第2節 都市・農村発展の一体化に向けた農村改革の到達点
 第3節 事例研究
 おわりに

第6章 地方政府の都市化戦略-富士康(フォックスコン)の内陸進出を事例に- 山口 真美
 はじめに
 第1節 人の移動にかかわる戸籍制度の変遷
 第2節 富士康の内陸進出
 第3節 工場の内陸移転
 第4節 貴州省貴安新区-都市化政策と企業誘致-
 おわりに

著者略歴

編:岡本 信広
岡本 信広 大東文化大学国際関係学部教授
穆  尭芊 環日本海経済研究所調査研究部研究主任
賈  海涛 南大学中印比較研究所教授
大塚 健司 アジア経済研究所新領域研究センター環境・資源研究グループ長
山田 七絵 アジア経済研究所新領域研究センター環境・資源グループ
山口 真美 アジア経済研究所地域研究センター東アジア研究グループ

ISBN:9784258046355
出版社:アジア経済研究所
判型:A5
ページ数:241ページ
定価:3700円(本体)
発行年月日:2018年03月
発売日:2018年03月12日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JHB