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行政責任を考える

著:新藤 宗幸

紙版

内容紹介

森友・加計学園問題,電通過労死事件,原発シビアアクシデント….行政の「責任」にかかわる問題はなぜ頻発するのか.本書は,昨今の身近な事例を取り上げ,官僚制組織の活動実態や政権との関係を批判的に考察する.政策や事業の中立性・公共性が厳しく求められる今,行政が果たすべき責任を問う.

「はじめに」(抜粋)
「本書で「行政責任」という問題を考えるとき、こうした行政官個人の責、科に帰着する事象ではなく、あくまで官僚制的行政組織の集団としての活動が基本的対象である〔…〕「行政責任を考える」とは、行政組織が執政部(内閣や大統領)、諸利益集団といかなる関係を取り結びながら、さらには組織内部の利害を調整しつつ、いかなる思考体系のもとで行動しているのかを、社会科学として、つまりは批判的眼差しをもって考察することであるといえよう〔…〕結局、現代日本において行政責任を考える際には、依然として政・官・業の「三角形」が行政実施体制の基底で影響力を有している状況はもとより、執政部(政権)が絶対的与党体制のもとで政策・事業を露骨に支配している状況を前提として、行政活動の内実を考察していかねばならないであろう。従って、政治が行政を統制しえているかといった行政統制論や、行政が国民への応答責任を果たしているかといった、ある意味で行政学のテキストの次元に議論をとどめてはなるまい」

目次

はじめに――行政責任を考えるということ

第I部 官僚制組織の自律とはなんだろう

第1章 「政治主導」の陥穽――見失われた緊張感ある政官関係
 1 政権に決定権の集中する国家戦略特区
 2 「岩盤規制」という言葉は妥当か
 3 政権主導論の台頭と見失われてきたもの
 4 問われる政権と官僚機構の緊張関係 

第2章 「天下り」問題にみる官僚制組織の特質
 1 2007年の国家公務員法の改正
 2 官僚の再就職に変化は生まれているか
 3 官僚制組織の外延部の拡大

第3章 「有識者会議」の濫設が意味するもの
 1 薬害エイズ事件と有識者会議――いまに教えるもの
 2 能力の低下か,責任の回避か――二つのケース
 3 官僚制組織の生き残りのために

第II部 政策の公共性と行政の責任

第4章 夢破れ「惨禍」が残る法科大学院――責任はどこに?
 1 法科大学院設置フィーバー
 2 法科大学院設置後の混乱
 3 問われているのは法曹養成制度
 
第5章 「原子力ムラ」を育て,歩み続ける行政の責任
 1 「原子力ムラ」の成長
 2 規制の名による原発の推進
 3 原子力規制委員会と「原子力ムラ」

第6章 「創生」の名による「消滅」――地方創生の背理
 1 繰り返される不均衡の「是正」政策
 2 「地方版総合戦略」と柔らかな中央統制
 3 地域社会の持続に問われるもの

第7章 「居住の権利」を奪う政策の貧困
 1 原発のシビアアクシデントと「居住の権利」の無視
 2 住生活基本法の意味するもの
 3 自治体に問われる居住政策

第III部 市民の尊厳と行政の責任

第8章 道徳教育がはらむイデオロギー――「心の支配」は許されない
 1 なにを指導しようとしているのか
 2 誰が,どのように教えるのか
 3 イデオロギー官庁であってはならない

第9章 過労死を防げぬ労働行政――なにが問題なのか
 1 「青天井」の労働時間規制
 2 労働基準監督官はどのように行動しているか
 3 政権は過労死に正面からむき合っているか

第10章 「子どもの貧困」と「子どもの虐待」に透けてみえる行政の病理
 1 専門職職員とボランティアの協働
 2 問われる生活保護行政のあり方
 3 プロフェッショナリズムと程遠い「子どもの虐待」対策

おわりに――行政の責任と知の責任


Thinking about Administrative Responsibility
Muneyuki SHINDO

著者略歴

著:新藤 宗幸
千葉大学名誉教授

ISBN:9784130331098
出版社:東京大学出版会
判型:4-6
ページ数:224ページ
定価:2800円(本体)
発行年月日:2019年02月
発売日:2019年02月21日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JP