小学館文庫
郷愁という名の密室
著:牧 薩次
紙版
内容紹介
予測不能。驚くべき変格ミステリ。
35歳の矢住鼎は絶望のあまり雪山で自殺を図った。しかし、ふと意識を取り戻した彼の前にいたのは、高校時代の後輩・風早雫だった。しかも彼女の姿は高校時代のままなのだ。さらに不思議なことに、そこは冬ではなく秋たけなわの無量温泉の旅館の一室だったのだ。
彼が逗留した温泉旅館で事件は起こる。まず、宿泊客の男女が刃物で殺害。ついで、隣の旅館の若女将が、完璧な密室状態の客室で刺殺されていた。犯人は内部の人間に違いない。ホームズ(鼎)とワトソン(雫)の前に殺人者の黒い影が迫る。深夜0:54。そのときあらゆる知覚が暗転した。
次の瞬間、鼎がいたのは、前の日(?)意識を取り戻した同日同時刻だった。〈リセット〉=同じ日が繰り返されていたのだ。そして、細部を微妙に変えながら同じ殺人は繰り返される。鼎の幼少時の記憶の謎。風呂に浮かぶ死体の移動。凶器の刃物の消失。そして密室はいかにして構築されたのか。そしてリセットされる時間の不思議。その中で同じ日を生きつづける若いままの雫の悲嘆。
多くの謎を孕んでミステリは〈郷愁〉という名のもとに収斂していく。