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驚きの皮膚

著:傳田 光洋

紙版

内容紹介

皮膚には視覚、聴覚があり、あるいは学習し、予知する力がある。その知られざる「皮膚感覚」を説く気鋭の皮膚研究者が、村上春樹のエルサレムスピーチを引用するとき、私たちが「裸のサル」になった本当の理由が明らかになる……。知的にしてスリリング! ページをめくる指先の快感!


120万年前、体毛を失って身体中の皮膚をさらしてから、人間の脳は大きくなりました。著者は、人間の言語の獲得にも皮膚感覚が関与していたと考えています。そして、人間の皮膚感覚にはふだん私たちが知らない驚きの能力がたくさんあります。皮膚は「見ている」「聴いている」「味わっている」「考えている」「予知する」……。本書ではそれらを国内外のさまざまな興味深い実験とともに紹介します。一例を挙げればこんな実験。一人の被験者にABCD四つの山に伏せられたカードを引かせます。カードには、いくらもらえる、いくら支払う、という指示が書かれています。100枚引いたところでゲームは終了しますが、多くの被験者は80枚くらいの段階で、どの山のカードが支払いリスクが高いか気づきます。ところが、同時に皮膚の電気変化を調べると50枚くらいでリスクの高い山のカードを引くときに「無意識」の電気変化が現れるのです。つまり、皮膚は脳より先にリスクを「予知している」ことになります。
本書は、そうした文字通り「驚きの皮膚」感覚を検証するだけでなく、その皮膚感覚のおかげで大きくなった脳が「意識」を司り、文明を創り、さまざまな社会システムを生み出し、今、その社会システムゆえに、時に個人の自由が奪われたり、あるいは生命が脅かされている現状に警鐘を鳴らします。
やがて著者の筆は、システムが複雑巨大化する中で、美術、音楽、文学など、芸術の世界で、皮膚感覚という原初の本能への回帰が、人間一人一人の生きる意味を問うていることにまで伸びていきます。
ゴッホ、マーラー、村上春樹をはじめ、多くの実例を引いた著者のロマンチシズム溢れる文章は、単なる科学読み物の域を超えて、多くの読者の知的好奇心を刺激することでしょう。

目次

第一部 境界に存在する知能
 脳を持たないゾウリムシの知能/皮膚感覚が脳を創る/体毛を失った人間 ほか
第二部 皮膚について
 皮膚の基本構造/サンフランシスコ留学時代/マグネシウムとカルシウム、そして電気 ほか
第三部 皮膚の見えざる能力
 女性の繊細な「触覚」/皮膚は「聴いている」/皮膚は「見ている」 ほか
第四部 皮膚とこころ
 皮膚は「予知する」/記憶する皮膚/手触りで変わる人間関係 ほか
第五部 皮膚がもたらした人間の機能
 皮膚感覚が言語を生み出した可能性/意識とは何か/白洲正子の触覚的知性 ほか
第六部 システムと個人のこれから
 意識のダークサイド/村上春樹の「壁と卵」/インターネットの影響 ほか
第七部 芸術と科学について
 回帰する美術/無意識を揺さぶる音楽/システムと個の文学 ほか

著者略歴

著:傳田 光洋
1960年、兵庫県神戸市生まれ。資生堂リサーチセンター主幹研究員。独立行政法人科学技術振興機構CREST研究員。京都大学工学部工業化学科卒。同大学院工学研究科分子工学専攻修士課程修了。94年、京都大学工学博士号取得。カリフォルニア大学サンフランシスコ校研究員を経て、2009年より現職。
著書に、『皮膚は考える』(岩波科学ライブラリー)、『賢い皮膚―思考する最大の臓器』(ちくま新書)、『第三の脳 皮膚から考える命、こころ、世界』(朝日出版社)、『皮膚感覚と人間のこころ』(新潮選書)がある。

ISBN:9784062196130
出版社:講談社
判型:4-6
ページ数:240ページ
定価:1500円(本体)
発行年月日:2015年07月
発売日:2015年07月29日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:VSP