世界の果ての魔女学校
作:石崎 洋司
絵:平澤 朋子
内容紹介
なにもかもうまくいかず、家出したアン。恋人の過去の姿がありありと目に浮かび、苦しむ少女、ジゼル。古書店で夏のアルバイトをしながら、「彼」を待つアリーシア。村のつまはじき者で、復讐のときをうかがうシボーン。世界の果てにある魔女学校は、どこにでもいそうな、そんな少女たちを狙っている。人間を呪う、りっぱな魔女にするために--。
2012年野間児童文芸賞、日本児童文芸家協会賞受賞作品。
なにもかもうまくいかず、家出したアン。
恋人の過去の姿がありありと目に浮かび、苦しむ少女、ジゼル。
古書店で夏のアルバイトをしながら、「彼」を待つアリーシア。
村のつまはじき者で、復讐のときをうかがうシボーン。
世界の果てにある魔女学校は、どこにでもいそうな、そんな少女たちを狙っている。
人間を呪う、りっぱな魔女にするために--。
目次
◆アンの物語◆
<けれども、あたしは二つめの角を左に曲がってしまったのでした。
あたしは、いつもそんな調子でしたけど。
街いちばんのあわてもので、なにをさせても中途半端。それで、親といい、先生といい、友だちといい、まわりの人をみんな、いらだたせてばかりの娘だったんです。
でも、あのときばかりは、あたしのせいだけとはいえなかったと思います。そもそも、カテドラルの方へいくのは、初めてだったし、そのうえ、とんでもなく暗かったんです。あたしじゃなくたって、まちがえる子は、きっといたはずです。>
◆ジゼルの物語◆
<「それは、嫉妬ですね。」
黒い羅紗布をかけた丸テーブルの向こうから、そう言われたとき、驚いたのとがっかりしたのとで、あたしは息が止まりそうになりました。
この人、あたしの相談を、若い女の子によくある恋の悩み、ぐらいにしか思ってない……。
そんなのとは、ぜんぜんちがうの。頭がおかしくなりそうなほど苦しいのよ。>
◆アリーシアの物語◆
<わたしが古書店の店番をしながら、読書に没頭していたときです。突然、男の人の声が降ってきました。
「これはいくらですか?」
こうして書いてみると、あたりまえのせりふですが、そのときのわたしには、天使が空から舞い降りてきたように思えました。>
◆シボーンの物語◆
<「ねえ、どうしてだれもしゃべらないの?」
うすぐらい教室に、大きな声がこだましました。声をあげたのは、前から三列め、右から三番め。名前はリズ。昨日の午後、ここへ来たばかりの、十三歳の女の子です。
「ねえ、どうして?」
わたしが座っているのは、教室の最前列のまん中。
でも、ふりかえらなくても、ぶあついくちびるがパクパク動いて、それにあわせて、鼻の両がわにちらばった小麦色のそばかすがふるえるのが、目に浮かびます。
「そういう規則だからよ。従いなさい。すぐに慣れるわ。」>