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岩波現代文庫 学術411

民衆の教育経験

増補版

戦前・戦中の子どもたち

著:大門 正克

紙版

内容紹介

人びとはどのように教育を受けたのか、そして教育を受けたことがその後の人生にどのような影響を与えたのか――学校、社会、家族……それぞれの眼差しのなかで子どもが教育を受容してゆく過程を、国民国家による統合と、様々な地域・階層の民衆による反発や対抗、捉え返しとの間の複雑な反復関係(教育経験)として捉え直す。現代文庫版では、肢体不自由児、在日朝鮮人や占領地の子どもの教育経験を検証した補章を付す。(解説=安田常雄・沢山美果子)

目次

はじめに
 「民衆の教育経験」とは/「生活極めて困難故に本人を要す」/史料の意味すること/史料の意味するもう一つのこと/初等教育をめぐる研究史/学校教育の受容過程を検討する/本書の四つの課題/本書執筆の動機


第1章 就学と進路をめぐる動向 ―― 農村と都市
 1 日露戦争前後の不就学 ―― 東京府田無町の例
  不就学者と家族/不就学者の職業
 2 第一次世界大戦後の教育水準
  農村における教育水準/農村と都市の比較


第2章 国家と学校の望む子ども像 ―― 一八九〇~一九三〇年代
 1 学校の子ども像の形成 ―― 日清・日露戦争期
  東京府編入当時の田無小学校/生活のリズム,学校のリズム/子どもの生活/教室で身につけたもの
 2 学校の子ども像の定着 ―― 第一次世界大戦後~一九三〇年代
  新築された田無小学校/学校生活の一年/大正期の田無の子ども/実業補習教育の普及/学校と家庭の連絡
 3 学校と家庭を結ぶ
  家庭との連絡/学校の望む子ども像


第3章 村の子ども像の輪郭 ―― 一九二〇~一九三〇年代
 1 農民家族のなかの子ども
  「村の子ども」の発見/教師の希望,農家の親の意向/農民家族と子ども/労働力としての期待/村の女の子/「孝子節婦」=求められる女性像
 2 村の子どもの自己認識
  都会の記者が見た村の子ども/村の子どもへの「絶大な刺激」
 3 都市近郊農村にあらわれた変化
  『東京市域内農家の生活様式』にみる親の子ども観/都市近郊農村の農民家族の役割分担/農村青年を悩ます結婚問題
 4 描かれた村の子ども像
  生活綴方教育が発見した村の子ども/郷土教育が描いた村の子ども/農村に入りこんだ家庭教育/さまざまな村の子ども像


第4章 都市の子ども像の輪郭 ―― 一九二〇~一九三〇年代
 1 都市新中間層の子ども ―― 東京府中野町
  東京中野町の風景/『ももぞの』の子ども像/次代の国民として育つ/綴方のなかの満州事変
 2 『ももぞの』の綴方にみる家族と子ども
  綴方の世界と個性尊重/親の学校への期待/発見された「都会の子ども」像/家族の領域/子どもの領分
 3 子どもの自己認識
  童心主義との落差/「よい子」の基準と受験/「よい子」と帝国意識の交錯 ―― 多様で矛盾する自己認識
 4 東京府滝野川周辺の子ども


第5章 教育の社会的機能と社会移動
  画期としての第一次世界大戦/教育の社会的機能(1) ―― 国家主義的な教育内容と規律/教育の社会的機能(2) ―― 社会移動と夜学校・講義録/半世紀ぶりにもどった「中学講義録」ノート/山梨・飯窪三千雄の例/教育の社会的機能(3) ―― 社会集団の担い手形成/教育の社会的機能(4) ―― 民衆運動のなかのリテラシー


第6章 戦時下の少国民 ―― 農村と都市の対比
 1 少国民の問い方
 2 十五年戦争下の小学校と子ども
 3 戦時期の児童生活調査 ―― 農村と都市
  平日の生活時間/休日の生活時間/子どもは一日をどのように過ごしたか/児童生活調査にみる戦時下の子どもの生活
 4 農村の子どもの戦時期
  『富岡寅吉日記』/学校生活が拡大することの意味/日常に拡大する戦争/山村の子どもの事例/矛盾の結節点=戦時期


第7章 学童集団疎開から戦後へ ―― 吉原幸子の戦時と戦後
 1 学童集団疎開と吉原幸子日記
  なぜ吉原日記をとりあげるのか/吉原幸子の略歴/疎開前の生活(一九四四年七月から八月)/吉原幸子日記への二つの印象/学童集団疎開の決定
 2 学童集団疎開の体験
  学童集団疎開の実施/到着,歓迎,一日の生活/幸子の役割,幸子の日々/地方と都市/少国民をつくる ―― 新聞取材の検証/「しっかりとした少国民」への道 ―― 決意表明の日記/「しっかりとした少国民」とその矛盾/決意表明の日記の検証
 3 縁故疎開へ
  帰京から再びの疎開へ,そして敗戦/日記を書きつづけるということ
 4 少国民誕生の意味
  少国民への統合/少国民と家族/映し出される差異と矛盾/集団疎開にあらわれた矛盾
 5 吉原幸子の戦後体験
  敗戦後の吉原幸子/幼年期へと向かう吉原/歴史のなかの吉原幸子/その後の吉原幸子


おわりに ―― 民衆の教育経験とは何だったのか
  農村と都市 ―― 教育と家族のかかわり/さまざまな子ども像/子どものジェンダ―/敗戦後の教育事情/教育の民衆的なとらえ返し/戦時体験の回想を検討する/戦後三二年目の回想と吉原幸子の位置/民衆の教育経験とは何だったのか ―― 三つの問いに即してあらためて考える


補章 戦時下の本土と占領地の子どもたち
 はじめに
 1 健康と少国民 ―― 光明学校の例
 2 内地のなかの朝鮮人の子ども ―― 協和教育
 3 南洋占領地の子どもたち
 おわりに


注 記
参考資料「〈シリーズ日本近代からの問い〉刊行のメッセージ」について
あとがき
岩波現代文庫版あとがき
解 説(安田常雄)
解 説(沢山美果子)

著者略歴

著:大門 正克
大門正克(おおかど まさかつ)
1953年千葉県生まれ.一橋大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学.都留文科大学,横浜国立大学等を経て,早稲田大学教育・総合科学学術院特任教授.日本近現代史・社会経済史.著書に『近代日本と農村社会』(日本経済評論社),『歴史への問い/現在への問い』(校倉書房),『全集日本の歴史15 戦争と戦後を生きる』(小学館),『語る歴史,聞く歴史』(岩波新書),『日常世界に足場をおく歴史学』(本の泉社),編著に『昭和史論争を問う』『新生活運動と日本の戦後』(日本経済評論社),『「生存」の歴史と復興の現在』(大月書店)など.

ISBN:9784006004118
出版社:岩波書店
判型:B6
ページ数:448ページ
定価:1420円(本体)
発行年月日:2019年09月
発売日:2019年09月20日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JNB