完全版 十字路が見える Ⅲ
南雲を指して
著:北方 謙三
内容紹介
二十年ぶりの親友との再会を語った「歳月は友情になにを作り出すのか」、タクラマカン砂漠疾走の記「揺れる河中に地球の不思議があった」など九十九篇のエッセイに加え、連作小説完結篇「ラストショット」を収録。「文士北方謙三、好奇心いまだ衰えず、行動力ますます盛んなり。ひたすら驚嘆!」(佐伯泰英氏)
目次
第一部 再会の岸辺へ
嗤わらっている人がいても仕方がないか
ひとり静かに唄っていたいものだ
時には自分の姿を見つめてみよ
気候も海もやはりちょっとおかしい
音楽もスポーツもやはりライブだな
私の才能はかたちになっているか
人生の黄昏になにを見ていればいい
男は心の無人島を求めるのだ
加齢が与える痛みは耐えるしかない
たるんだ顔の肉を髭で隠す姑息
旅の空と呟いてただ笑ってみようか
涙でも嘆息でもない相棒がいるのだ
安全装置のある人生なんて
叫びより遠い日々がいつも蘇るのだ
意表を衝く映画を教えてくれないか
懐かしさが消えているのも人生か
大鵬がいて柏戸がいたなあ
路傍で声をあげていたかもしれない
昔言った言葉が蘇えると心が疼くよ
甘くていいだけの人生ではなかった
壮大で緻密な映画を求めているのだ
眼でものを言う文化もあるのだよ
水害の脇を通り抜けてしまった
昔できたことが忘れられないのだ
待つだけでいい時だってあるぞ
されど時計と思った日に買ったの
いなくてもそばにいるのが友だちだ
感じた通りが正しいと思えばいい
やがて人生の黄昏の友になってくれ
時々思い出す愛しいやつらがいる
なんでも当たればいいと言うか
懐かしき友の声が聴こえてきた
ここにいるのがちょっと違ったのか
トロ玉の消えて悲しきわが老年
気がむいて北に流れてみたけれど
観る方がいいのか出る方がいいのか
いつか新しいものを見つけてやる
螺貝は大きい方がいいに違いない
自然と言っても人の手は必要なのだ
どんな虫だって命は命と思うけれど
悲しき男が背を曲げて消えていった
昔からこわいところがある
日本人だから日本語を遣おう
会わないより会う方がいいと思った
歳月は友情になにを作り出すのか
第二部 風と海と祈りと
生きることは殺すことか
歩き回っても見えないものはあるか
みんな大らかに生きようぜ
絶叫してみてなにが見えたか
あのライブで君に会ったよな
役作りにはエネルギーが必要だ
丈夫な歯でも安心しない方がいい
ちょっとだけ夢を見たいものだ
もし海が死んだら人はどうなるのだ
簡単に治ったとは思わない方がいい
この脳ミソの質が悪いのだろうな
うまいものはただ通り過ぎる
璧でないから本物だと信じたい
現金ゲンナマに手を出すなと言っていいの
星は心の中にあるものを信じよう
いなくなったやつが心の中にいる
いま海を眺めて地球の健康を思う
好きな作家と会ったことを思い出す
映画が心を慰める日日は切ない
美女と冷気とどちらでもいいか
場所を選んでなにをやれというのか
いつかおまえと友だちになろう
なんだってたやすいものが難しい
十八歳の議員を拒絶してはならない
アナーキーはエネルギーなのか
釣った大魚をどう捌けというのだ
うまかったものの記憶が切ない
顔のパーツは失ってはならない
映画に出て自分の姿を知った
なにかひとつ通じるだけでいい
揺れる河中に地球の不思議があった
なにが人に必要か考え続けて走った
どんなところにもいるのは人なのだ
風が吹いたら眺めているしかない
たかが杖でも生きものなのだな
見ているだけではどうにもならない
静かに生きて消えていく犬の哀切さ
いつまでも生きられると思うなよ
記憶が鮮やかに蘇える夜もある
自然が一番いいに決まっているぞ
どこでも音楽は涙とともにある
人は腰だなと気軽に言わないでくれ
いつからこんなになってしまった
鬼だったことがないわけでもないが
若いから許される日々だったのだ
眠っても眠らなくても夜は来る
心を支配するのは機械などではない
あれかこれかと悩むだけでいいのか
どこにでも毒はあるとしてもだ
きのうも会ったと思える人がいる
[特典小説]
ラストショット