人殺しの花
政治空間における象徴的コミュニケーションの不透明性
著:大貫 恵美子
内容紹介
日本における桜,ヨーロッパにおけるバラ――美や友愛,郷土愛の象徴として親しまれてきた花は,なぜ人々に自らの命を国家や大義のために捧げることを強いる政治的プロパガンダの道具になったのか.コミュニケーションの不透明性と複雑さが「人殺しの花」を生み出してゆく仕組みを,様々な事例を通して解き明かしてゆく.
目次
序 章 象徴的コミュニケーションの不透明性と複雑さ
文 化
文化のパラダイムの複数性 「意味の共有性」の仮定 アクターとエージェントの違
「コミュニケーションは可能であるか?」――従来の学説
コミュニケーションの不透明性――分析の枠組み
意味の多義性(polysemy)
意味――相互関係・プロセスの中での定義 意味の多義性――要約
意味の歴史的変遷
美的要素
象徴――具体化と非具体化
無のシニフィアン
第Ⅰ部 多義性――プロセスの中で規定される象徴の意味
第一章 日本の桜の花
民衆の間での様々な意味
農業の生産性と人間の生殖(再生産性) 生命の謳歌/愛と喪失 非
規範的世界の祝福と桜
花見と集団的アイデンティティ
「近代化」「文明化」と桜
文化的/政治的なナショナリズム・軍国主義
兵士としての桜の花――軍の徽章 日本的空間の標識(marking)
桜の花とされた特攻隊員 美化・美意識
要約および議論
第二章 ヨーロッパ文化圏におけるバラ
宗教、文学、芸術の中のバラ
政治的空間におけるバラ
反体制の象徴としてのバラ 非暴力の革命としてのバラ/花 現代独裁者たちの赤いバラ 白いバラ――ナチス・ドイツにおける抵抗運動
要約――バラの多義性
第三章 米と日本人の集団的自己――排除にもとづく純粋さ
農業民の宇宙観
日本人の神としての米 共食のための米 日本的空間・時間としての米、日本人の元始的自己としての米 農業民の宇宙観における米の美的価値
象徴生産の政治経済学
歴史的危機の局面における自己と他者
外部の他者――「中国人」と「西洋人」 日本の米、中国の米 日本の米、西洋の肉 カリフォルニア産短粒米と日本産短粒米
結 論
第Ⅱ部 集団的アイデンティティとその象徴表現
第四章 集団的自己と文化的/政治的ナショナリズム――比較的視座より
集団的アイデンティティの象徴的表象
文化的/政治的ナショナリズムと愛国心 政治的ナショナリズムの象徴― ドイツと日本 ナチス・ドイツ― 元始的自己像と近代的自己像の同時表象 大日本帝国
要 約
第Ⅲ部 (非-)外在化――宗教的・政治的権威/権力
第五章 見えない、聞こえない日本の天皇
明治以前の天皇制
明治期につくり直された天皇制
日本人の宗教性
外在化されない天皇
「公に姿を現した」天皇 朝廷儀式 肖像画/写真 錦絵 切手と通貨 聴覚的な非- 外在化
天皇に対する国民の態度
無のシニフィアンとしての天皇、その政治的含意
結 論
第六章 宗教的・政治的権威/権力の(非- )外在化
宗教的権力/権威とその(非- )外在化
政治の指導者と、その外在化――イメージとスピーチ
君主たち 近代の独裁者たち 政治演説 視覚的イメージ 政治的儀式
おわりに
注
謝 辞
文献一覧
索 引