出版社を探す

「論理的思考」の社会的構築

フランスの思考表現スタイルと言葉の教育

著:渡邉 雅子

紙版

内容紹介

国内外で活躍するための必須スキルとされる「論理的思考」。だが実は、「何を論理的・説得的と感じるか」は普遍的なものでなく、ある国(文化)で論理的とされるものが、ほかでは非論理的だと受け取られることも。本書では、日や米とも異なるフランスの「論理的思考」と、それが社会的に構築される様相と背景を読み解く。

目次

序 章
 1 思考表現スタイルと論理的思考
 2 学校の特別な役割
 3 小論文の型と「論理的である」と感じる根拠
 4 なぜフランスなのか
 5 本書の構成


第一部 論文構造から生まれる論理と思考法――哲学と文学のディセルタシオン

第1章 論文の構造と論理の型――エッセイとディセルタシオン
 1 「論理的」であることの探求
 2 ディセルタシオンの構造と論理――エッセイとの比較から
 3 構造から導かれる米仏の論理の特徴

第2章 哲学のディセルタシオンと哲学教育――吟味し否定する方法を教える
 1 哲学のディセルタシオンの特別な地位
 2 哲学教育の目的、内容構成と方法
 3 哲学のディセルタシオンを書く
 4 哲学のディセルタシオンを分析する
 5 小括――哲学のディセルタシオンに見る思考表現のスタイル

第3章 文学のディセルタシオンと文学教育――文学鑑賞と論理的思考
 1 高校のフランス語(文学)教育――目的と構成
 2 文学の論述問題
 3 文学のディセルタシオンを書く
 4 文学のディセルタシオンに見る弁証法の論理

第4章 ディセルタシオンの歴史――新しい社会の論理の模索、伝統と革新の接点
 1 伝統的な教育――フランスの論理的文化と三つの形式主義
 2 フランス革命とディセルタシオンの創造
 3 哲学教育とディセルタシオン――自由に自律して考えるための訓練の創造
 4 小括 ディセルタシオンは教育を刷新したか――変わったものと変わらなかったもの


第二部 論理的思考の段階的な訓練――ディセルタシオンを目指した言葉の教育の全体像

第5章 小学校で教えられる論理――言語の内的論理と視点の一貫性
 1 文法・描写・物語を通した論理的思考
 2 作文(rédaction)――形式による論理的一貫性を学ぶ訓練
 3 物語の創作における二つの訓練――視点による論理的一貫性と物語の「定義と型」の習得

第6章 中等教育で育まれる論理――「論証」から「弁証法」へ
 1 中学校における「論証」――自然の配置から論理の配置へ
 2 高校で育まれる論理――弁証法という思考の飛躍
 3 小括――高校で育まれる論理と論理的思考


第三部 判断し行動するための論理――推論する、討論する、合意するための教育

第7章 歴史教育――過去の解釈と未来予想に見る推論の型、「合理性」の判断基準
 1 フランスの歴史教育の構成――教科書に見る時間の概念と歴史認識
 2 フランスの歴史教科書の構造と授業の構造
 3 過去はどう語られるか――フランスの歴史授業の五つの特徴
 4 視覚イメージで教える効果――見えるものから「見えないもの」を読み解く
 5 いかに評価するか――良い説明(歴史の語り)と求められる能力
 6 未来はどう捉えられているか――歴史教育に見る過去・現在・未来の構造

第8章 歴史教育の歴史に見る思考法の変遷
 1 歴史教育の転換点(一九七〇年代の改革)――新教育とアナールの歴史研究の方法
 2 揺り戻しと新たな発展――公民教育としての歴史と年代史・政治史の復活(一九八〇年代)
 3 史料から構築する歴史へ――生徒の多様化とデカルト的方法(一九九〇年代から)
 4 グローバル化・情報化への対応――共通基礎の導入
 5 二〇〇〇年以降のディセルタシオンの大衆化と歴史教育――理想と現実、断絶と継承、批判と実像
 6 教育の大衆化とテーマとイメージによる歴史

第9章 市民性教育――合意形成の手続き
 1 言葉の定義を通した合意形成と共通の文化の構築
 2 学級の規則作り――手続きの遵守と形式主義(公民科)
 3 言葉の定義から「判断の基準」を学ぶ
 4 「社会は変えられる」――フランス革命の遺産を伝えるプロジェクト
 5 哲学による前提の合意形成――歴史に学び、共同体の文化を形成する討論
 6 討論から政治的行動へ
 7 政治教育としての市民性教育――言葉の定義と手続き遵守の社会生活への適用

終 章 フランス社会の〈論理〉の構築――ディセルタシオンが導く思考表現スタイル
 1 思考表現スタイル――思考・判断・表現の型
 2 社会の利益か、個人の目的達成か――共和主義と民主主義
 3 民主主義型の思考表現スタイル――補助線としてのアメリカ
 4 結語 小論文の〈論理〉から考える社会の未来――フランス、アメリカ、そして日本


あとがき

参考文献
資 料

著者略歴

著:渡邉 雅子
渡邉雅子(わたなべ まさこ)
名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授。
コロンビア大学大学院博士課程修了。Ph.D.(博士・社会学)。専門は知識社会学、比較教育・比較文化、カリキュラム学。
主著に『納得の構造――日米初等教育に見る思考表現のスタイル』(東洋館出版社、2004年)、編著『叙述のスタイルと歴史教育――教授法と教科書の国際比較』(三元社,2003年),論文「フランスの思考表現スタイルと政治的教養の育成――アメリカとの比較から」『教育学研究』84巻第2号2017年、180-191 頁、Typology of Abilities Tested in University Entrance Examinations : Comparisons of the United States, Japan, Iran, and France, ComparativeSociology, 14(1), 2015, pp.79-101 など。

ISBN:9784000026062
出版社:岩波書店
判型:A5
ページ数:274ページ
定価:4200円(本体)
発行年月日:2021年07月
発売日:2021年07月19日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JNB