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野外鳥類学を楽しむ

編:上田 恵介

紙版

内容紹介

 鳥類研究のメッカ,上田研究室の歩み。
 鳥のオスはなぜきれいなのか? 
 他人の巣に卵を産む鳥はどう進化したのか? 
 鳥の声は何を伝えているのか?  
鳥たちに関する不思議や素朴な疑問,立教大学上田研究室はこうした疑問にこたえるために全国から集まった鳥類学を志す若者たちの梁山泊でした。キーワードはフィールドワーク。北海道から沖縄まで,そしてオーストラリアからニューカレドニアへと,日本国内だけにとどまらず,世界のさまざまなフィールドで鳥たちの行動や生態を追った気鋭の若手研究者の貴重な成果がここに凝集されています。
 行動学や生態学は欧米ではメジャーな学問分野です。しかし日本では,すぐに成果につながらない基礎研究はずっと軽視され続けて来ました。その意味で,立教大学に上田研究室という鳥類学の研究室が存在したことの意義は大きいです。
 この本には上田研究室にいた若い研究者たちが,この四半世紀になしとげた野外鳥類学の貴重な成果が集められています。鳥類学ばかりではなく,行動学,生態学を志す若い研究者には必読の書です。

目次

目 次

1 ルリビタキを中心とした富士山での長期野外研究
  - その背景にある上田研究室の歴史-(森本 元)
  はじめに 
  上田研究室,その歴史
  研究者を目指すなら
  上田恵介の「ええんちゃう」
  富士山での長期研究とルリビタキのオス間闘争
  おわりに

2 メボソムシクイの研究と私と上田先生
  - 上田研で過ごした思い出- (齋藤武馬)
  はじめに
  悩んだ研究テーマ
  メボソムシクイの分類の研究
  苦戦した博士号の取得
  学生の面倒見のよい上田先生
  おわりに

3 人為的な環境,水田におけるゴイサギの生態 (遠藤菜緒子)
  はじめに 
  水田における人の営み
  調査地である津軽平野南部の水田環境
  津軽平野南部で分かったゴイサギの生態
  ゴイサギの生息状況
  ゴイサギの採食生態と水田の生物たち
  上田研での研究
  野外調査編
  研究室編
  ゴイサギの採食場所決定要因
  おわりに

4 ジュウイチのヒナの騙し戦略と感覚生態学(田中啓太)
  はじめに 
  黎明
  ジュウイチとの出会い
  研究開始
  山口さんとの出会い
  実験をする勇気
  ISBE in Jyväskylä(ユヴァスキュラ)
  研究の成就
  感覚生態学の夜明け- 上田研編
  いざ,聖地ケンブリッジへ
  感覚生態学に本格参入
  鳥たちが見ている「異次元」の色
  未来へ!
  自由が生かす運
  おわりに

5 コヨシキリのオスの配偶戦術 (濱尾章二)
  プロローグ- 査読者からの手紙 
  荒川河川敷のコヨシキリ
  意外なものまね鳥
  さえずったり,さえずらなかったり
  婚姻システム
  おもしろく,大きな疑問
  つがい外受精
  時間とともに変化するオスの労力配分
  お父さんの仕事
  論文にせなあかん

6 ツミの巣の周りで繁殖するオナガの生態と行動
   - 「朝飯前鳥類学」のすすめ-(植田睦之)
  はじめに
  まずはツミを見る
  仕事をしながらの研究
  オナガの利益を野外実験で確かめる
  多少無理してもツミのそばが良い?
  繁殖時期はツミ次第
  楽までできるツミの巣の周りのオナガ
  明らかにできなかったこと
  変わりゆくツミの繁殖状況
  時代にあわせて変わるオナガ
  なぜオナガだけが?
  おわりに

7 太平洋の孤島,小笠原でのオオコウモリ研究(杉田典正)
  はじめに 
  コウモリ
  オオコウモリ
  オガサワラオオコウモリ
  オガサワラオオコウモリのねぐらの季節変化と繁殖サイクルの関係
  コウモリだんごの保温と配偶機会への役割
  コウモリだんごと気温の関係
  コウモリだんごと配偶システムの関係
  おわりに

8 オオセッカの同種誘引- 行動学的視点で繁殖分布の謎に迫る- (高橋雅雄)
  はじめに
  オオセッカの魅力と謎
  オオセッカとの出会いと研究の始まり
  野外調査の妙技- 観察と巣探し
  オオセッカの巣の形態と営巣環境
  3タイプの巣の意義
  オオセッカが集まる行動学的メカニズム
  検証実験の手法
  同種誘引による繁殖地新設
  おわりに 

9 カラ類の音声研究10年間の軌跡(鈴木俊貴)
  はじめに
  野外研究の幕開け
  カラ類との出会い
  初めてのフィールドワーク- コガラが餌場で鳴く理由
  利他的に見えるコガラの行動
  やはり群れを餌場に呼んでいる?
  混群に参加することのメリット
  餌場に仲間を集めるメリット
  上田恵介先生との出会い
  上田研究室へ
  シジュウカラの音声研究,最悪の幕開け
  ヘビの存在を示す声
  巣箱の改良
  シジュウカラの警戒声- 捕食者の種類をヒナに伝える
  つがい相手にも捕食者の種類を伝える
  その後の研究
  おわりに

10 スズメプロジェクト- スズメ研究誕生の裏話とその広がり-(三上 修)
  はじめに
  立教大学の雰囲気  
  鳥の研究では昆虫の研究には敵わない?
  打算的な精神から生み出された無邪気なスズメ研究
  スズメ研究がウケタ!
  上田研の一日,そしてワイン事件
  スズメプロジェクトの誕生
  スズメ研究の波及効果
  上田研で学んだこと
  おわりに

11 河川の鳥たちのご近所づきあい- 鳥との関係,人との関係-(笠原里恵)
  はじめに
  河川と人とのつながり
  信州大学教育学部生態学研究室
  川の漁師,小さなカワセミと大きなヤマセミの棲み分け
  親鳥たちの子育てメニューを知る方法
  ヤマセミと釣り人の関係
  砂礫地の忍者,イカルチドリとコチドリ,ときどきイソシギ
  イカルチドリとコチドリと河原の人々
  おわりに

12 島はやっぱり面白い- 南大東島の自然と鳥-(松井 晋)
  はじめに
  太平洋に浮かぶ大東諸島
  南大東島の気候と台風
  南大東島の開拓の歴史
  南大東島の動物相
  いくつかの新しい発見
  おわりに

13 テリカッコウとその宿主の托卵を巡る攻防(佐藤 望)
  はじめに
  カッコウの托卵
  托卵を巡る共進化
  カッコウの托卵の謎
  カッコウ以外のカッコウ類の異なる共進化パターン
  研究のきっかけ
  ダーウィンでの生活スタート
  托卵された巣の発見
  宿主によるヒナ排除の発見
  大学院に進学
  卵をあえて受け入れている?
  舞台はニューカレドニアへ
  ニューカレドニア調査
  カレドニアセンニョムシクイのヒナの色
  おわりに 

14 ヤブサメの複雑な隣人関係(上沖正欣)
  はじめに
  ヤブサメの夜鳴きに惑わされた学部~修士時代
  難しい調査地選定
  北の大地での新たなスタート
  巣探しに翻弄された野外調査
  ヤブサメの複雑な隣人関係に巻き込まれた博士課程
  鳥のペアは複雑な事情を抱えた仮面夫婦
  見えない血縁関係を見たい
  DNA解析から見えてきたヤブサメの複雑な隣人付き合い
  おわりに
    コラム ツツドリに騙されたヤブサメと私

15 南の島巡りで見つけたクサトベラの変わった種子散布戦略(栄村奈緒子)
  はじめに
  種子散布
  クサトベラ- 種子散布に関わる果実の二型
  クサトベラとの出会いから研究テーマの設定まで
  島巡り調査- 海岸タイプごとの二型の出現頻度の違い
  果実二型の種子散布能力の違いを調べる試み
  おわりに
    コラム 研究室に住むウズラ「うっずー」

16 両親で子育てをするモズの繁殖生態を追う
   - 親鳥と巣を襲う捕食者の戦い-(遠藤幸子)
  はじめに  
  オスもメスも子育てをするモズ
  調査地軽井沢
  モズの繁殖を追いかける  
  植物の棘を利用して,捕食回避?
  巣に近づくときは慎重に
  新たな研究テーマとの突然の出会い
  おわりに

17 キビタキの生態研究(岡久雄二)
  はじめに
  世界から見たキビタキの位置づけ
  富士山でのキビタキの調査
  キビタキの繁殖生態
  論文執筆と海外からの反応
  キビタキの羽色の研究
  未解明の研究課題
  おわりに

18 糞や葉に化けるアゲハチョウ- 鳥の目を欺く昆虫-(櫻井麗賀)
  はじめに
  捕食者としての鳥
  昆虫の体色
  研究仲間
  ナミアゲハの幼虫の体色変化
  さなぎの捕食回避戦略
  アオスジアゲハの幼虫
  アオスジアゲハのさなぎ
  ミカドアゲハのさなぎ
  おわりに

19 巣箱を使う鳥たちの観察:大潟村の樹洞営巣性鳥類
   その1.  スズメの研究- 孵化しない卵の謎-(加藤貴大)
  はじめに
  上田研究室に入った理由
  都市のスズメの巣はどこ?
  新調査地「秋田県大潟村」
  大潟村の鳥たち
  スズメの未孵化卵の謎
  胚の死亡率の性差
  巣箱による繁殖密度の操作
  卵が胚発生しない原因
  おわりに

20 巣箱を使う鳥たちの観察:大潟村の樹洞営巣性鳥類
   その2.  アリスイとアリの研究(橋間清香)
  はじめに
  初めてのフィールドワーク!
  アリスイはアリの種類を選んでいるのか
  野外調査の楽しみ,苦労
  上田先生,研究室の思い出
  おわりに

21 オオルリの繁殖生態と美しい構造色の羽(徐 敬善)
  はじめに
  軽井沢のオオルリの繁殖生態
  メスの美しい鳴き声は悲しい泣き声
  軽井沢でオオルリの野外調査
  野外調査の楽しみ
  美しい構造色の羽
  羽の構造と構造色の羽のナノ構造
  おわりに

引用文献
あとがき
索 引

著者略歴

編:上田 恵介
1950年大阪府枚方市に生まれる。府立寝屋川高校卒業後,大阪府立大学農学部で昆虫学を学ぶ。修士まではブチヒゲヤナギドクガの個体群生態学を研究,その後,京都大学農学部昆虫学研究室を経て,1978年に大阪市立大学理学部博士課程に進み,和泉市信太山をフィールドにつがいの絆の存在しないセッカの一夫多妻制を研究した。1984年,大阪市立大学より理学博士号取得。三重大学教育学部非常勤講師を経て,1989年,立教大学一般教育部に助教授として就職。2000年より教授。2016年3月をもって研究室を閉じる。
 日本野鳥の会副会長,研究誌『Strix』の編集長。狭い意味での専門は鳥の行動生態学だが,研究のキーワードは進化。ローレンツ以降の古典的動物行動学から進化心理学(人間社会生物学)までを広く研究。擬態や種子散布の進化など,生物同士の共進化にからむ進化生態学も得意分野。最近は感覚生態学も興味の範囲。

ISBN:9784905930839
出版社:海游舎
判型:A5
ページ数:418ページ
定価:4200円(本体)
発行年月日:2016年11月
発売日:2016年11月07日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:PSVJ