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交尾行動の新しい理解―理論と実証

編:粕谷 英一
編:工藤 慎一

紙版

内容紹介

過去の教科書であなたの学んだこと,それは本当に正しいのですか?

 この30年余りの間に,動物行動学や生態学は,確かに,交尾行動について多くを明らかにしてきた。「メスとオスの基本的な差」,「オス間の交尾をめぐる競争」,「メスによる交尾相手の選り好み」という3つの線に沿って,膨大な数の研究が行われてきた。それらの成果は,教科書的な本にも数多く取り上げられている。しかし,多くのものが見えてくるにしたがい,逆に「まだ明らかにされていない部分の大きさが際立ってきた」と私たちは感じている。一部には「これら3つの線で得られたこれまでの成果は,教科書に取り上げられるほど確固たるもので,交尾行動についてはほぼ明らかになっている」という感覚も漂っているようだが,それは研究の前線で感じるものとは違っていると感じている。そして,そういった成果が得られた後も,紆余曲折しながら交尾行動や雌雄関係の新たな描像が育っているとも感じている。生物学を専攻する,特にこの分野の研究を志す若い人たちに,「このことを伝えたい」と思って私たちは本書を編んだ。
 交尾行動の研究は,理論と実証の相互作用で進んできた。そして,交尾行動を題材にして多くの理論モデルが作られてきた。だが,個々の面に焦点を当てたモデルが多数作られた結果,統一的なイメージを持ちにくくなっているのではないだろうか。林(第2章)は,これらの理論モデル間の関係を明快に整理している。理論の統一的な理解を進めるうえで,本章は必読と言えるだろう。また,粕谷・工藤(第1章)は,交尾行動の基礎にあるメスとオスの違いとそれが生じる過程について,これまでの理論の不十分な点を解説している。生態学や動物行動学の日本語での専門書でも,まだ十分に説明されていない内容であろう。この章では,近親交配はいつでも不利だというわけではなく,有利・不利はどのように決まるかも説明している。
 理論や仮説はすっきり美しくても,現実はしばしば紆余曲折している。ある理論の予測によく合っている例として取り上げられているようなケースでも,詳細に見ていくと,よく合っているのは見かけにすぎないと思えることは珍しくない。狩野(第3章)と原野(第4章)は,交尾行動研究の代表的なモデル生物を例に,研究の現場で検証が実際どう進んでいくかを活写しながら,現在の理解の到達点を見せてくれる。
 交尾行動の不思議に心引かれる若い人たちの「わくわく感」に,本書がいくらかでも応えるものになっていれば幸いである。(「はじめに」より)

著者略歴

編:粕谷 英一
九州大学大学院理学研究院 准教授 農学博士。研究テーマ:交尾と捕食回避の行動生態学,データの統計的解析
編:工藤 慎一
鳴門教育大学大学院学校教育研究科 准教授 博士(農学)。研究テーマ:節足動物における親の投資に関する行動生態学

ISBN:9784905930693
出版社:海游舎
判型:A5
ページ数:200ページ
定価:3000円(本体)
発行年月日:2016年03月
発売日:2016年03月15日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:PSV